成田凌「逃亡医F」は賛否両論 リアリティを無視か、ひたすら娯楽性を追求か

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 1月期ドラマで最も評価が分かれる作品は日本テレビ「逃亡医F」(土曜午後10時)ではないか。リアリティを無視した怪作か、ひたすら娯楽性を追求した快作か。突っ込みどころが山ほどある半面、また見たくなる中毒性も持つ。摩訶不思議な作品である。

 「逃亡医F」には第1話から度肝を抜かれた。SFでもホラーでもないのに、非現実の連続だったからだ。

 殺人容疑者の濡れ衣を着せられた天才脳外科医・藤木圭介(成田凌、28)が、潜伏先の海洋観測船内で、ちぎれてしまう寸前だった沢井美香子(森七菜、20)の左腕を手術で再建させた。

 海洋観測用の機材が直撃した美香子の左腕は骨が見えていた。耐えがたいほどの激痛と大量の出血があったはず。まず間違いなく気絶する。ところが美香子は正気を保っていた。

 それだけではない。圭介に「逃げて」と助言。その上、「私は父の手が大好きだったんです。力強くて、何でも出来て、触られると妙に落ち着いて」と、亡き父親の思い出を悠長に語り続けた。人間離れしていた。

 圭介の手術も凄かった。天才どころではない。神がかっていた。神経などの縫合には手術用の顕微鏡が欠かせないが、船内にはないので、グラインダーで氷を削って拡大鏡代わりにした。まるで「科学と学習」(学研)の附録の世界である。

 それより謎だったのは、どうやって手術中の微生物感染を防いだのかということ。麻酔薬を投与する場面はあったが、船内に抗菌薬もあったのだろうか。

 もっとも、ここで気づかされる。ドラマはみんなウソなのだ。「ミステリと言う勿れ」(フジテレビ)のように警察が大学生に推理を委ねることは現実にはないし、「DCU」(TBS)のように逮捕権を持つ海上保安庁職員は存在しない。それぞれの作品はウソの度合いが違うだけである。

「逃亡医F」はウソのスケ―ルが途方もなく大きいに過ぎない。特別な訳ではない。これまで医療の絡む作品は一定のリアリティを保とうとしてきたが、その常識を粉砕しようとしている。

 もちろん確信犯に違いない。プロがつくっているのだから。

リアリティを重んじるドラマとは別次元

 統括プロデューサーの荻野哲弘氏(52)は名作「高校生レストラン」(2011年)や「有閑倶楽部」(2007年)などをプロデュースしてきた人である。

 圭介が第2話で健太少年(白髭善、8)に施した先天性肺静脈狭窄症の手術も第3話で「すずらん珈琲」マスターの香川照男(升毅、66)に行った聴神経腫瘍の手術も「おい、おい」だった。けれど、この作品はリアリティを重んじるドラマとは別次元でつくられていると考えると、穏やかな気分で観られる。

 そう考えれば、ほかの疑問点もクビを傾げずに済む。例えば、圭介は恋人で研究医の八神妙子(桜庭ななみ、29)を殺した容疑を掛けられ、警察と妙子の兄・拓郎(松岡昌宏、45)に追われているのだが、この拓郎が第1話で捜査本部に乗り込み、大暴れした。

「容疑者教えろって言ってんだろ!」(拓郎)

 完全にイカれていた。捜査本部に行きつくまでに警察署員たちをボコボコにした。「相棒」(テレビ朝日)などでは決して観られない光景だった。やはりリアリティを重んじるドラマとは別次元なのだ。

 さらに拓郎は麻雀賭博をネタに刑事の筋川(和田聰宏、44)を脅し、一緒に圭介を追った。捜査情報も流させた。派手さに欠けるが、これもウソなのは言うまでもない。刑事は単独で捜査しないから、拓郎と一緒に行動するのは無理なのだ。

 第一、麻雀賭博もマズイが、それで脅されて捜査情報を流すのはもっとマズイ。例えば2020年、麻雀賭博をしていた富山県警の警察官9人は所属長による口頭厳重注意処分で済んでいる。一方、情報漏洩は地方公務員法違反に問われ、まず例外なく退職を迫られる。

 もっとイカれた人物が第2話に登場した。圭介の潜伏先だった長野・志賀高原で遭遇した「信州おやきテレビ」の若手アナウンサ―・島崎咲良(馬場ふみか、26)である。

 逃亡中の圭介の姿をカメラに収め、自分が成り上がろうとした。

「このスクープで私は東京栄転、報道キャスター就任、からの独立、からの女優、からの下着のプロデュース……」(咲良)

 この程度のスクープ1つで人生が大きく変わるとは思えないが、咲良は圭介に直撃取材を図る。反撃した圭介からハンディカメラを奪われると、恐ろしく姑息な手段に出た。

「返さないと、あなたに襲われたって叫びます」(咲良)

 地面をゴロゴロ転がり、洋服を汚した。

「泥だらけ、草だらけの私を見て、警察は何と言うんですかね」(咲良)

 コイツのほうがよほど犯罪者だった。

 偶然の連続も凄まじい。第2話。雪の中で倒れた圭介を救うのは後に手術を行う健太君。そのまま香川によって病院に運ばれた圭介を、「彼は怪しいものではありません」と言って庇ったのは、突然現れた美香子。警察が圭介を捕らえられないのは捜査員たちがマヌケだからとしか思えない。

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