葛西紀明が明かす、後継者「小林陵侑」金メダルの可能性 伝授した門外不出のメソッドとは
今季のワールドカップでは4連勝を含む最多の7勝。年末年始の4試合で争う「ジャンプ週間」でも2度目の総合優勝を果たした小林陵侑(りょうゆう)選手(25)が、金メダルの“大本命”と目されているのは紛れもない事実だ。そんな“日本のエース”の非凡な才能をいち早く見抜いたのが、レジェンド・葛西紀明氏(49)だった。小林が所属する土屋ホームで監督を務める一方、現役選手として競い合う関係でもある“師匠”が、大一番を目前に控えた愛弟子との秘話を明かす。
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初めて陵侑のジャンプを目にしたのは、彼が高校2年生だった頃です。当時は、まだ飛び抜けた成績を残していたわけではなかったんですが、そのジャンプが、オーストリアのグレゴア・シュリーレンツァウアー選手(ワールドカップ男子の最多勝利記録保持者)に似ていると感じました。
具体的には、空中で腰を曲げ、身体を「くの字」にして飛んでいる。飛形が「くの字」型だと腰の部分に溜めができ、そこに風が当たってうまく浮力を掴めるんです。多くの選手は飛んでいる最中に腰が伸びて、風が抜けていってしまう。あの体勢を維持するバランス感覚や運動神経を含め、持って生まれた飛び方だと思います。だからこそ、最初に彼のジャンプを見たときは驚きましたよ。“これは化けるぞ”と。
「葛西メソッドを教えようか?」
その後、高校を卒業した陵侑は、2015年に僕が監督を務める土屋ホームスキー部へと加入しました。当時から、しょっちゅう僕の自宅にやって来てはご飯を食べていたし、昨年11月には陵侑の誕生日パーティーをうちで開きました。シーズンオフにはうちの家族と一緒にハワイ旅行へ行ったことも。本当に家族ぐるみで仲良くしています。性格も生意気なタイプではなく、チームに入った当初は本当に可愛かったですよ。いまは強くなり過ぎて可愛くありませんが(笑)。
とはいえ、技術的な指導は基本的にコーチが担当しているので、僕が付きっきりで教えているわけではありません。大きな壁にぶつかったときですね、僕のところにアドバイスを求めてくるのは。
陵侑にとって最初の挫折と呼べるのは、2016/2017年のシーズンです。開幕からワールドカップにフル参戦したものの、結果は33位が最高。ワールドカップではシーズン中に20試合以上を転戦し、各試合で30位以内の選手にポイントが与えられる。つまり、そのシーズンの陵侑は、年間獲得ポイントが“ゼロ”でした。
この挫折を味わったことで、陵侑は改めて「もっと強くなりたい」という思いを抱くようになりました。
それが伝わってきたので、僕はわざと「ノーポイント~!」みたいに冷やかしながら発破をかけていました(笑)。その上で、
「どうだ、悔しくないか」
「悔しいです」
「それなら、葛西メソッドを教えようか?」
「はいっ、お願いします!」
というやり取りがあって、僕の指導が始まったんです。
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