患者数400万人「軽度認知障害」過度に恐れるのは… 診断されたらどう過ごせばいい?

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日課は「個人の歴史」

 他方で注意したいのは、80代、90代でMCIと診断されたとしても、もの忘れがひどいというくらいで身体が元気ならば、いまさら生活習慣を一気に変えてしまうのは考え物だということです。患者さんのご家族たちが、心配するあまり食事制限などを試みる場合もありますが、本人にしてみたら、これまで通り好きな物くらい自由に食べさせてくれよという話です。

 加齢には個人差がありますが、もの忘れがひどいというのは「老化」のひとつでもあります。ここでいう「老化」とは、もはや治療によって治すことのできない症状を指しますから、MCIだからと無理に本人を追い込むような生活を強いるのではなく、これまで通り自由な暮らしを送らせてあげることも選択肢に入れてほしいのです。

 個々人がこれまでの人生で築いてきた生活習慣というのは、軽々に変えられるものではありません。人が毎日行う日課は「個人の歴史」であり、過去の記憶を繋ぐ大事な接点です。誰しも、日々のルーティンをする中で、楽しかったことや辛い出来事を思い出したことがあると思います。それと同じく、いつもおじいちゃんが朝起きて郵便受けから新聞を取ってきて、お茶を飲みながら記事に目を通すのも大事なルーティンなのです。“いや、傍から見れば新聞を読んでいるのか怪しいくらいボーっとしている。だったら、その時間は運動をさせた方がいい”と無理やりラジオ体操に行かせようとしたり、新聞を取り上げて脳トレをさせようとするのは逆効果です。

「やらされ感」は逆効果

 日課を維持しつつ、新たな挑戦をするのはいいと思いますが、あくまでも主体的にやるのが大切です。他人から強制されれば脳の働きは「忍耐モード」に移行します。主体的な挑戦は「やる気」が生まれることによって脳の働きを活性化させますが、受動的な挑戦は「やらされ感」を増幅させ、ストレスを与えるだけです。脳が活動的になることはなく、使う認知機能の幅も狭いと思います。

 MCIと診断されただけで、まるで認知症になったかのような扱いを世間から受けてしまうのは、患者さん本人も傷ついて心が折れるだろうし、本当にかわいそうだなと思います。実際のところ、脳の変化はまだそれほど進んでいないにもかかわらず、MCIと診断された途端にガックリきて何もしなくなってしまう人もいます。やろうと思っていた計画を諦めたりする人もいますが、そこまで悲観すべきことではありません。

 ほとんどの人が、ごく一般的な生活はできるわけですし、周りのご家族の方々も心配するのであれば、患者さん本人が生きる気力を失わないような支援をしてあげてほしい。一番必要な支援というのは「患者さん本人の自信をなくさせないこと」に尽きます。先入観に押し切られて「認知症患者のような生活」を始めてしまう患者さんが多いのは、とても残念なことです。

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