北京五輪 ピークを過ぎた小平奈緒の戦い方に注目 人生そのものが見える5人の日本人選手

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ライバルの手をとりリンクを一周

 女子500メートルで期待どおり金メダルに輝き、1000メートルでも銀メダルを獲った小平奈緒は、平昌五輪で最高のヒロインだったと言っていいだろう。500メートルのレース後、ライバルの李相花(韓国)の手をとり、ともにリンクを一周した。地元の五輪で敗れた、親友でもある李への配慮。会場のファンが、そしてテレビを通じて世界のファンが熱い思いに染められた。小平奈緒の見せたスポーツマンシップは、今後も長く語られるだろう。

 4年が経って、小平はスタート直後の100メートルのタイムが以前のような鋭さを失い、選手としてのピークを過ぎたと見られている。だが、重圧のかかる五輪の舞台で、経験と技術、深い洞察を携えて競技と取り組んで来た小平の人間力、総合力が新たな輝きを見せる期待を心の片隅に感じている。同時に、少し残酷だが、あの日、ライバルの李が味わった悔恨に今度は小平が直面する可能性も想像する。その時、小平はどんな表情で、どんな振る舞いをするのだろう。その時にこそまた、小平の成長と人間味が表れるだろう。

 北京五輪で小平の最大のライバルと見られているのは、今季の世界ランキング1位で黒人選手として初めてスピードスケートW杯優勝を果たしたエリン・ジャクソン(米)だ。ジャクソンは、アメリカの国内代表選考会で氷に足を取られ、3位に敗れた。本来なら出場を逃すところだが、1位になったブリタニー・ボウ(米)が「1000メートルと1500メートルに集中したい」と500メートルの代表を返上した。そのおかげで、ジャクソンの繰り上げ出場が決まった。アメリカ国内でもまた新たなライバルの友情物語が生まれた形だ。

今度こそ、個人での金

 日本選手ではもうひとり、平昌五輪で3個のメダルを獲得した髙木美帆の活躍が期待されている。1000メートルで銅、1500メートルで銀、団体パシュートで金メダルを獲った。が、個人での金メダル獲得はならなかった。対照的に、大会前はそれほど注目されていなかった姉の髙木菜那が個人のマススタートと団体パシュートの2種目で金メダルに輝き、一躍脚光を浴びた。

 髙木美帆は、「早咲きの選手」だ。2010年のバンクーバー五輪に中学3年生(15歳)で出場したものの、その後は必ずしも順調な競技人生ではなかった。14年のソチ五輪には姉の菜那だけが出場。美帆は悔しさをかみしめた。初めてのオリンピック出場から12年の歳月を経て、今度こそ、個人での金メダル獲得に挑む。

 1000メートル、1500メートル、3000メートル、団体パシュートの4種目出場は確実。500メートルにも出場するかもしれない。出場するすべての種目で金メダル獲得の可能性を秘めているだけに、個人で複数の金メダル獲得の期待は十分。この間の挫折と成長と挑戦のすべてが髙木美帆のレースからにじみ出て来るのではないか。髙木美帆の全身からあふれでるすべてを感じながら、レースを見守りたい。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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