ドバイ万博祝賀行事中止の衝撃 日本で見落とされている中東リスクとは

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平和の祭典が一転

 日本であまり報じられることがないが、ドバイ万博は中東・アフリカ地域で初めて開催される歴史的に意義のある国際博覧会だ。当初の開催期間は2020年10月から2021年4月までだったが、新型コロナのパンデミックのせいで2021年10月1日から2022年3月31日に変更された。

 国威発揚を狙うUAEは会場建設費に70億ドルもの巨額の資金を投じたとされている。

 ドバイ万博に参加している日本館は行列ができるほど人気を博している。細かな霧を起こす装置や3D映像を壁などに投影する「プロジェクションマッピング技術」といった最新技術を駆使して日本文化を伝える幻想的な空間が評判を呼んでいる。昨年12月11日に開催されたジャパンデーでは、各種行事を通じて2025年の大阪・関西万博のPRも兼ねて日本の魅力を発信した。日本館には現地スタッフを含め約170人が常駐している。

 ドバイ万博のテーマは「心を繋いで、未来を創る」だ。五輪とともに平和の祭典とされる万博が「他国の勢力に攻撃されるリスクにさらされる」という前代未聞の事態になっている。万博に参加している日本人に被害が及ぶ可能性も排除できない。

 そもそもなぜUAEはフーシ派と対立するようになったのだろうか。

 UAEがサウジアラビアとともに2015年からイエメンの内戦に介入したのが事の始まりだ。UAEは数千人の地上軍を派遣したが、多大な被害が生じたことで2019年に撤兵した。だが昨年12月にサウジアラビアとの間でUAEが武器を与え訓練を施したイエメン人の民兵組織「巨人旅団」をイエメンの前線に投入することで合意した。

 この効果は絶大だった。巨人旅団は次々とフーシ派の支配地域を奪還した。

 小国ながら大きな軍事力を持つことから「リトル・スパルタ」というニックネームを持つUAEの面目躍如だ。だが「過ぎたるは及ばざるがごとし」。

 予想外の苦戦に激高したフーシ派がUAEの中心部に攻撃を仕掛けたことで、UAEは自らの戦略的な脆弱さを露呈させてしまった。「配備している防衛システムではドローン攻撃をすべて防ぐことは困難だ」と焦ったUAEが急接近したのは、2020年夏に国交を正常化させたイスラエルだ。

 イスラエルのヘルツォグ大統領は1月30日に首都アブダビを訪れ、「UAEが安全保障で必要とすることを完全に支援する」と述べた。「UAEはイスラエル製のドローン迎撃システムの導入を急いでいる」との憶測が流れているが、UAEが軍事的にもイスラエルと急接近することはUAEの対岸にあるイランにとって看過しがたい動きだ。フーシ派への軍事支援を活発化させて、UAEの安全保障環境を一層脅かす行為に出る可能性が高い。

 中東地域で最も安全とされてきたUAEだったが、イエメン情勢に再び介入したことが仇となり、「地政学リスクの中心」に躍り出てしまった感がある。

 UAEは日本にとって第2位の原油輸入国だ。全体の輸入量の4分の1を占める。

 足元の原油市場はウクライナ情勢の影響で高値となっているが、日本にとっての真の脅威は中東の地政学リスクから生じる原油価格の高騰ではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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