なぜ今「藤井隆」が再評価? 他の大物MCにはない“王道ではない”才能とは
緊張より緩和を重んじるMC 女性たちのいい面を引き出すのが上手いプロ
「マシューの番組だから出たんだよ」と静かに語ったあややだが、強引な進行の裏にある繊細な優しさは、彼女に限らず多くのタレントからの信頼を得ていた。当時の神田沙也加さんや菊池桃子さんも、藤井さんの隣でずーっと「うふふふ」とリラックスした様子で笑っている映像が残っている。もちろん妻・乙葉さんも例外ではない。もともとニコニコしている人だが、結婚して15年以上経っても夫への感謝を口にし、変わらず笑顔を見せ続けてくれている。
女性のいい顔を引き出すのが上手という意味では、「Matthew's Best Hit TV」に「クレア黒沢」というキャラで出演した森三中・黒沢かずこさんや、「なまり亭」のコーナーでの磯山さやかさんなど、女性タレントがひと皮むけるきっかけを作った功績も大きい。個人的には椿鬼奴さんの楽曲プロデュースが秀逸だと思う。架空のアニメ主題歌をそれっぽく歌う鬼奴さんは実にまぶしい。レイザーラモンRGさんと三人で歌ったり踊ったりしている動画はずっと見ていられる。
「あらびき団」でも、すぐにツッコむ東野さんと対照的に、涙を流して笑ってくれるのは藤井さんだ。つくづく人の良いところ、一生懸命なところを見つけるのが得意な人なのだろう。
マルチに活躍しても器用貧乏という自己評価 王道ではない自覚から生まれた名MC力
藤井さんのMCには特長があって、どんなにハイテンションだろうと敬語は欠かさない。「お仕事やってらっしゃる」「ご自身ではどう?」とか、相手が年下でも新人でもリスペクトしている姿勢がうかがえるのだ。ポッドキャストでも、「その質問は愚問だよとか、やめてよって思ったら言ってね」とあややを気遣っていた。
もともと謙虚な人柄なのだと思うが、彼の進行から感じるのは「王道ではない」という負い目や、冷静すぎる自己評価である。インタビューを読むと、ピン芸人として笑いを取れるようなトークはできないし、同期の中川家と比べれば力の差は歴然としていたと語っている。音楽やダンスに興味がありながらも、芸人が音楽?という目や取材には居心地の悪さを覚えたこともあったそうだ。舞台出身とはいえ、ドラマや映画は勝手が違ったはず。あややには「藤井隆? あの子可愛いだけ。スパイスが足りないのよ」と語っていたマシュー。なんでもできてしまうからこそ、器用貧乏な印象に陥りがちということだろう。
どの現場でも、自分は本流ではないという自覚やはじらいを忘れず、承認欲求に溺れない。やればやるほど共演者に対する尊敬を深め、自分の立ち位置を冷静に見つめる客観性を藤井さんは育んでいたのではないだろうか。
相手への愛と敬意、そして適正な自己認識と距離感。それはMCの必須スキルでもありながら、意外と従来のMCには問われなかったものだ。俺のルールの中で面白いことを言えよ、という上から目線ではなく、あなたのルールを尊重しながら話しましょうね、という横から目線。多様性と優しさを重んじる令和の潮流と同じだといえるのではないだろうか。今になって藤井さんがMCとして重宝されるのも、うなずけるというものだ。
考えてみれば「あらびき団」も「新婚さんいらっしゃい!」も、テーマは多様性そのもの。女性に限らず、ゲストも視聴者も「うふふふ」とさせてくれるのは藤井さんを置いて他にいない。藤井隆に出会えてよかった、うれしはずかしオーマイハート。デビュー時のネタで恐縮だが、テレビの前で思わず微笑みまじりにつぶやく視聴者が、これからますます増える気がする。
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