正念場を迎える「日本のSL」事情 “脱炭素”“老朽化”などが課題に
我が国の鉄道はSL(蒸気機関車)が客車を牽引する形で誕生し、2022年で150年の節目を迎えた。国鉄最後のSL列車が1975年12月24日に北海道で幕を閉じたあと、翌1976年から大井川鐵道を皮切りにSLの動態保存(動作や運用が可能な状態での保存)が相次いでいる。華やかで常に人々の注目を集める半面、膨大な維持費や車両の老朽化などの課題もある。SL列車の現状を考察してみよう。【岸田法眼/レイルウェイ・ライター】
今、SLでもっとも活気がある東武鉄道
今、SLで話題性が高いのは東武鉄道だ。2007年8月10日より(※)SL〈大樹〉が鬼怒川線下今市―鬼怒川温泉間で運行を開始すると、人気が沸騰。当時、SLはJR北海道から借り受けたC11形207号機を牽引していたが、不具合の発生や、大掛かりな検査の時期になるとDL(ディーゼル機関車)が“代走”することもしばしばあった。
その後、日光線下今市―東武日光―鬼怒川線鬼怒川温泉間を結ぶSL〈大樹「ふたら」〉を新設、真岡鐵道C11形325号機、JR東日本DE10形1109号機の移籍による補強で、2021年7月31日から毎日運転を実施。客車も2019年4月13日から14系ドリームカー(JR北海道から移籍した車両)、2021年11月4日から12系展望車(東武鉄道渾身の改造車)も加わった。
東武鉄道のSL事業で力を入れているのは、大手私鉄初のSL復元工事だ。北海道江別市のC11形静態保存車両を譲り受け、復元工事を開始。新型コロナウイルスの影響による復元工程の遅れ、ボイラーなどを新製品に取り換えるなどの困難を乗り越えた。2021年12月24日に南栗橋SL検修庫で「C11形123号機」として美しい姿が来賓や報道陣などに披露されたあと、火入れ式(神事)が行なわれた。
2021年12月24日の取材日時点では、まだ完成していないという。2022年1月以降も復元工事を進め、春頃の試運転を目指す。
※〈大樹〉用車両のうち、SL、客車、車掌車は借り受けも含め東武博物館、DLのみ東武鉄道が保有している。
SL列車の廃止決定などが相次ぐ
SL列車の運行にはリスクが伴う。まず、SL自体を新製する車両メーカーがなく、動態保存として復元するしか道が残されていない。加えて膨大な維持費、老朽化などの問題などもあり、運行見直しのケースも発生している。
先述の真岡鐵道と真岡線SL運行協議会は、C11形325号機とC12形66号機を保有していたが、維持費の高騰や乗客の減少も重なり、2019年12月1日をもって前者の運行を終了し、東武鉄道に移籍した。
JR西日本は2021年5月21日付のプレスリリースで、2020年春から運行休止中の臨時〈SL北びわこ〉(北陸本線米原―木ノ本間運転)の廃止を発表した。使用する12系客車は、SLの煤煙の少ない換気することが困難で、なおかつ、新型コロナウイルスの感染防止対策が充分にできないという。さらに、部品の入手などや保守に苦慮していることが追い打ちをかけた。ようは客車の老朽化で、後継車がないのだ。
一方、国鉄のSL動態保存第1号として名高い臨時快速〈SL「やまぐち」号〉(山口線新山口―津和野間運転)の客車は、12系700番台(改造車)から35系4000番台(旧型客車を可能な限り再現した新製車)に置き換えており、対照的な展開となった。
JR東日本も2023年春をもって臨時快速〈SL銀河〉(花巻線花巻―釜石間運転)の運行を終了する。こちらはSLを牽引するキハ141系700番台という気動車の老朽化が要因だ。
SLの動態保存では初めて、「SL+気動車」の組み合わせとなったのは、花巻線に最大25パーミルの急勾配があり、SLの自力走行が困難なことである。JR東日本は客車ではなく気動車を連結し、SLとの協調運転を図ることで、弱点を補う役割を担った。また、気動車なので、自力でSLを牽引することもできる。
しかし、SL(C58形239号機)は2013年12月に復元されたのに対し、キハ141系は前身の50系客車時代から40年以上も働き続けている。臨時快速〈SL銀河〉用に車内がリニューアルされても、車体やディーゼルエンジンの老朽化がJR東日本の想像以上に進んでいたのだろう。
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