北京五輪に橋本聖子氏出席の重要な意味…対韓・対中外交は岸田と安倍の違いを図るリトマス試験紙
安倍元総理に中国のいらだち
中国政府関係者によると、中国側のフラストレーションのひとつは「総理経験者で中国を刺激するようなことを言う人間は他にいない」ということだ。確かに、総理時代に靖国神社を参拝して日中関係を悪化させた小泉純一郎も、尖閣国有化で中国国内の反日デモを引き起こした野田佳彦も、総理を辞めた後は中国が目くじらを立てるような発言はしていない。
中国が安倍を意識するのは、歴代最長政権を維持したことや、今も自民党最大派閥の領袖で影響力が大きいということもある。また、安倍が触れたのが台湾問題という、中国共産党にとって核心的利益の最重要部分ということもあるだろう。実は、安倍は今回の講演で台湾独立自体には触れておらず、中国側の批判は当たっていない。また、総理時代には財界の意向を受けて日中関係改善に向けて動いていた事実もあり、その意味で反中派ではない。しかし、有事法制成立に見られるように、安全保障問題になるとアメリカ寄りになり、中国をことさら警戒する方向に振れるので、中国としては「肉中刺(肉に刺さったトゲ)」(目の上のたんこぶと同意)なのだ。
台湾派だった祖父・岸信介のDNAを引き継ぐ安倍。一方、田中角栄とともに日中国交正常化を外務大臣として成し遂げた宏池会第3代会長・大平正芳の衣鉢を継ぐ岸田。二人は中国への見方が大きく異なっているほか、国内の経済政策に関しても異なる考えを持っている。これらの考え方の違いは、自民党にとって蟻の一穴ともなりうる。
岸田は「いま一番重要なのは参院選だ」と周囲に語っており、岸田派内では今夏の参院選が終わるまでは他派閥、特に最大派閥である安倍派をできるだけ刺激せず、穏便にやっていこうというのが暗黙の了解となっている。しかし裏を返せば、参院選で勝利さえすれば岸田が自身のカラーを前面に押し出す可能性は高い。その際に、自民党の中でどのような化学反応が起きるのか……。
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