雪印「国産牛偽装」告発から20年 西宮冷蔵社長のいま 「13億円の負債は少しずつ返しています」

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現在の妻

 部屋の天井や壁には水谷氏自ら「妻や」と称する若い「美女」の写真が多く貼られている。菜々さん(30)だ。男として育てられたが、精神的には女性という性同一性障害で子供の頃から苦しんできた。真麻さんと知り合い、洋一さんは彼女の一番の友達になっている。戸籍上は男性のトランスジェンダーで、夜は大阪のニューハーフの店で働く。将来ははるな愛さんのようなタレントになりたいそうだ。菜々さんからは取材中にも電話がかかり、水谷さんは「愛してるよ」と答えていた。

 真麻さんの介護に追われ、仕事もできない水谷さんに「施設に預けるとか訪問看護とかは?」と訊いた。ここでも水谷さんの考えは一風違う。「訪問看護もやったけど真麻が気持ちよく寝ていても起こしてしまう。すべて向こうの時間の都合。そんなのは本当の介護ではない。だから自分で介護するんです」。筆者が「水谷さんがもっと高齢になったらどうするんですか?」と訊くと、飲んでいた缶ビールを置いて「なんも考えとらん」。

 あの告発の時も先のことは考えなかったか。時に女装もする風変わりな水谷さん。しんどい生活からの現実逃避に見えなくもない。アルコールも入り、どこまでが本音か、当方は測りかねていたが本人は久しぶりの訪問をいたく喜んでくれた。

 爆弾告発の前年秋、筆者は不祥事で共同通信社を追われ路頭に迷っていた。東京の実家を拠点に出版社回りをしていた2002年1月、水谷氏の爆弾告発を知る。西宮市育ちの筆者はすっ飛んで神戸に戻り、ルポを月刊誌「潮」に書くと、退職前のベテラン編集者が評価してくれ背表紙に名を載せてくれた。これに元気づけられ何とかライター業を続けている。筆者のために告発したわけではなかろうが「長い物に巻かれない」水谷洋一氏は今も恩人である。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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