【カムカムエヴリバディ】なぜ登場人物の多くが「ナレ死」を遂げるのか

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主題歌にもテーマが

 この作品の謳い文句の1つは「あなたがいたから私です」なのである。だから稔の死より、その血と命が、一人娘・るいにしっかりと受け継がれていることを描く。

 この物語は安子、るい、ひなた(川栄李奈、26)という3世代の女性たちによるファミリーストーリーである。一方、「これは、すべての『私』の物語」とも謳われている。

 藤本さんは3世代の血と命のリレーを活写することにより、観る側に自分たちがどうして今、ここにいるのかを考えさせようとしているのだろう。通常の朝ドラと同様にヒロインが1人だったら、絶対に伝えられないテーマである。偉人伝にせず、ヒロインを身近な存在にしたのも計算ずくに違いない。

 ナレ死や口頭説明だけの死が多い半面、これほど多くの親子、親と子と孫が登場する朝ドラも珍しい。岡山の雉真家、豆腐屋の水田家、京都に転居した金物屋の赤螺家。血と命のリレーを描くためにほかならない。

 象徴的なのは時代劇界の大スター・桃山剣之介(5代目尾上菊之助、44)の名跡襲名まで盛り込まれたこと。モモケンこと桃山剣之介が亡くなると、息子の桃山団五郎(同)が2代目を襲名した。

 立ち止まって考えてみると、この襲名はナレ死を多用してまで描かなくてもいい話であるはず。血と命のリレーを描こうとしている表れだ。

 るいの親友・野田一子(市川実日子、43)が、京都の茶道の師匠の娘で、日本舞踊の師匠と結婚するのもやはり血と命のリレーと無縁ではないだろう。茶道と日本舞踊は何代も受け継がれていく家業なのである。ちなみに物語には一子の娘・一恵(三浦透子、25)も登場。ひなたの親友となる。

 るいの回転焼のあんこが、杵太郎から4代続く秘伝の味であることは今さら説明するまでもない。まさに「あなたがいたから私です」という物語だ。

 この物語のために森山直太朗(45)が書き下ろし、AI(40)が歌う主題歌も「アルデバラン」だ。アラビア語で、和訳すると「後に従う者」である。血と命のリレーというドラマとピタリと合致している。

 日々、画面の中で起きるエピソードに目を奪われているうち、いつの間にか謳い文句と寸分違わぬ物語と化していた。藤本さん、出演陣、演出陣に敬服するばかりだ。

 血と命のリレーをテーマにしたドラマはアレックス・ヘイリーの原作に基づく米国の歴史的大ヒット作「ルーツ」(1977年)がある。日本でも山口瞳氏が原作者で早坂暁氏が脚本を書いたNHKドラマ「血族」(1980年)がそう。傑作だった。けれど、あまりにもスケールが大きくなることから、このテーマでのドラマは久しくつくられていない。

 この物語の血や命のリレーは続くだろう。例えば戦況悪化を理由に1941年から高校野球の甲子園大会が中止になり、稔の弟・勇(村上虹郎、24)は悔しい思いをしたが、その無念を晴らす若者が一族から出てくるのではないか。

 第39話に登場した勇の息子・昇(谷川生馬、11)は父と全く違い、勉強熱心だった。非業の死を遂げた叔父・稔の血を受け継いだように見えた。どう成長するのか。

 雉真繊維創業者である千吉の最晩年の言葉も気になる。同じ第39話、後継者の勇にこう言った。

「暮らしぶりが変わって需要が少なくなっても、足袋は作り続けてくれ」(千吉)

 足袋は雉真繊維の原点だからだが、ほかの意味も持ってくる気がしてならない。

 足袋は時代劇に欠かせない。るいたちは時代劇撮影のメッカ・京都に住み、ジョーは時代劇が大好き。ひなたもそうだ。没交渉が続く雉真家とるいが、足袋を通じて結びつくのではないだろうか。

 まだ見せ場はふんだんに残されている。まず「ラジオ英語講座と共に歩んだ3人のヒロインが紡ぐ」物語でもあるから、るい、ひなたもラジオで英語を学び始める。一体、どうして英語をおぼえようとするのか。

 安子の場合、GHQ将校で後に一緒に渡米するロバート・ローズウッド(村雨辰剛、33)から、第29話で英語を学んだ理由を問われると、こう訴えた。

「稔さんが言うたんです。『明日の朝、6時半にラジオつけてみてって』。私にとって、英語を勉強することは、夫のことを思うことでした。でも、戦争が、戦争が、全てをメチャクチャにしました」(安子)

 悲痛な叫びだった。るいはこの話を知らない。

 一方、るいの場合、最終的には米国にいる安子と近づくためになるのではないか。

 高等小学校を出て間もない安子は愛する大学生・稔に言われるまま、一生懸命に英語を学んだ。いじらしかった。

 一方、るいも愛する安子と接点を持つため、英語を学ぶ気がしてならない。安子を探したり、手紙を書いたりするには英語が欠かせない。

 るいは「自分は棄てられた」と繰り返し口にしていたものの、安子に深く愛されていた記憶が蘇り始めている。

 安子との思い出の曲「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」を聴くことを怖れなくなって久しくなった。安子から教えられたあんこづくりも始めて長い。

 クライマックスはこれからだ。安子はどうしているのか、雉真家はどうなっているのか、ジョーは再びトランペットを吹けるようになるのか、安子とるいから未来を奪い取った算太(濱田岳、33)は何をしているのか――。

 劇中では今、1975年。1965年4月生まれのひなたは10歳、1925年3月生まれの安子は50歳、1944年9月生まれのるいは31歳である。誤解のためにもつれた親子関係を修復する時間は十分過ぎるほどある。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

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