元公安警察官は見た 蓮池さんを拉致した「北朝鮮スパイ」はどこで“背乗り“する日本人を物色したか

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CIAが情報提供

 その一方でチェは、小熊さんの戸籍を勝手に使ったことが発覚するのを恐れて、彼を北朝鮮へ拉致するよう金に命じたという。しかし1976年7月、小熊さんが病死したことで、その必要もなくなった。

「そして1978年7月31日、工作員の2人と共に新潟県柏崎市で蓮池薫さん、祐木子さんを北朝鮮に拉致しました。確認が取れているのはこの2人だけですが、他にもチェに拉致された日本人がいる可能性があります」

 チェは他の日本人にも背乗りしている。1980年4月、北海道函館市出身で山谷で労働者生活を送っていた小住健蔵さんの戸籍を函館から東京に移し、小住名義のパスポートや運転免許証を取得。香港、マレーシア、タイ、西ドイツ、韓国などに渡った。

「1982年、CIAから警察庁に『小住健蔵を名乗る男は北朝鮮のスパイ』という情報が寄せられました。それをきっかけに公安外事2課が捜査を開始したのですが、公安の動きを察知したチェは83年2月、マレーシアに出国してしまいました」

 1985年3月、公安部は西新井事件でチェの協力者である金錫斗を公正証書原本不実記載容疑で逮捕。その後金には懲役1年、執行猶予4年の判決が下された。

「背乗りされた小住さんは、チェに拉致された可能性が高いとみています。チェは、北朝鮮と国交があり、定期便も飛んでいるマレーシアやラオスに潜伏した可能性もありますが、今はどこにいるのか見当もつきません」

 警視庁公安部は2006年3月、蓮池さんらの国外移送目的略取と国外移送の容疑でチェを国際手配し、北朝鮮に対して身柄の引き渡しを要求している。同時に、旅券不実記載、旅券不正取得、免許証不正取得などの罪で全国指名手配したが、逮捕される可能性はまずない。

勝丸円覚
1990年代半ばに警視庁に入庁。2000年代初めに公安に配属されてから公安・外事畑を歩む。数年間外国の日本大使館にも勤務した経験を持ち数年前に退職。現在はセキュリティコンサルタントとして国内外で活躍中。「元公安警察 勝丸事務所のHP」https://katsumaru-office.tokyo/

デイリー新潮編集部

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