トランプの“悪だくみ”が招く米国内戦の恐怖 大統領復帰のために州務長官を抑える?
バイデン米大統領が就任してから1月20日で1年が過ぎた。滑り出しは比較的好調だったが、足元の支持率は低迷している。
バイデン氏は昨年の大統領就任式で「民主党も共和党もない」と国民に対して団結のメッセージを送ったが、米国でその後に生じたのは分断の一層の激化だった。支持率の低迷に悩むバイデン大統領はこのところ、自らが推進する政策に異議を唱え続ける保守派への怒りを露わにしている。バイデン政権を支持するリベラル派も、保守派に対して非寛容かつ好戦的になっている。リベラル派にとって「敵」は今やイスラム過激派や中国・ロシアではなく、白人至上主義者だとの指摘もある。
そのせいだろうか、米司法省は11日「白人至上主義者や反政府活動家の脅威の増大に対応するため、国内テロ対策に特化した部門を新設した」と発表した。FBIのレイ長官も昨年9月、連邦議会上院の公聴会で「アフガニスタン政府の崩壊とタリバンによる権力掌握により、米国の過激派がこの動きに刺激され、米国内でテロを起こす可能性が高まった」と警告を発していた。2001年9月に発生した同時多発テロ事件後、米国は海外で「テロとの戦い」に注力してきたが、20年が経った現在、「国内の白人至上主義者らが引き起こすテロが最大の脅威になる」という皮肉な事態となっている。
トランプ再選への警戒
トランプ前大統領の支持者が連邦議会議事堂を襲撃した事件から1年の節目に合わせて実施された世論調査で、米国人の58%が「自国の民主主義が崩壊の危機にある」と考えていることが明らかになった(1月13日AFP)。
建国の父たちが作った憲法は「抑制と均衡のシステムこそが自由と民主主義を持続させる」との考え方に立脚している。だが前回の大統領選挙で共和党側が「米国の選挙は不正であふれている」との主張を続けたことで、米国の選挙制度に対する信頼が大きく揺らいでいる。「制度」への忠誠よりも党派政治が優先する状況が今後も続くようであれば、米国の民主主義は機能しなくなってしまうだろう。
1月12日付CNNは「次回の大統領選挙でトランプ氏が再び共和党の大統領候補となり、接戦となる事態になれば、米国の民主主義は危機に直面する」と報じている。「前回の大統領選挙で米国の民主主義は寸前のところで救われたが、次回の大統領選挙では何が起きるかわからない」との警戒感が高まっている。
米国の著名な歴史家であるイエール大学のティモシー・シュナイダー教授は「2024年の大統領選挙では、票数で敗北した候補者がトリックを使って大統領になる可能性がある」と懸念している(1月15日付ビジネスインサイダージャパン)。
シュナイダー氏はトリックの中身について明示していないが、捲土重来を期すトランプ氏はそのトリックを仕込み始めているようだ。
トランプ氏は15日、アリゾナ州で大規模な集会を開き、「2020年米大統領選挙の勝者は自分である」と改めて支持者に訴えた。多数の支持者の前に姿を見せたのは昨年10月以来だ。この日のトランプ氏は、州知事、そして州務長官の候補者にも支持を表明した。アリゾナ州で州務長官に立候補しているフィンチェム氏は「前回の大統領選挙には不正があり、捜査の必要がある」と主張する熱烈なトランプ派だ。
州務長官というポストは日本ではなじみがないが、州知事・副知事に次ぐナンバー3の公職だ。通常は目立たないが、選挙結果の確定作業を担うため大統領選挙の際に重要な役割を演じることがある。2000年の大統領選挙でフロリダ州の票の数え直しの際に当時のハリス州務長官が決定的な判断を下したことは有名だが、前回の大統領選挙でも「トランプ氏がジョージアの州務長官に選挙結果を覆すよう圧力をかけた」とされている。
前回の敗戦の教訓から、トランプ氏は激戦州に自らを支持する州務長官を据えようとしており、アリゾナ州を始め11州でトランプ派が既に立候補を表明している。「激戦州の州務長官を抑えれば、民主党候補に得票数で劣っていても、結果を覆すことができる」との思惑がトランプ陣営にあるのではないかと言われている。
[1/2ページ]