五輪モーグル金「里谷多英」が語る秘話 「レース中に記憶が飛んだ」(小林信也)
里谷多英は、1998年長野五輪のモーグルで、冬季五輪日本人女性初の金メダルに輝いた。スキーに導いてくれたのは父・昌昭だった。
「3歳上の兄とスキー場に通い始めたのは3歳の頃。自宅から車で30分のテイネオリンピアが最初の遊び場でした。小学校3年の頃はもうさまざまなコースのあるテイネハイランドの難しい斜面を滑っていました。父は自営だったので、午後になると毎日『行くか』って感じで連れて行ってくれました」
小学生ながら里谷の滑りは大人たちの目を引いた。
「コブだらけの斜面を私が滑っていると、リフトの上から歓声が上がるんです。それがうれしくて」
里谷が笑った。
「人前で話すのは苦手だけれど、スキーでは目立ちたい自分がいて」
木とコブだらけ。樹木が多くて圧雪車が入れないため、自然の荒々しさがそのまま残る難斜面が里谷を育てた。
4年生で初めて出た地域の大会で地元・札幌スキー連盟の面々を驚かせた。すぐにスキー用具の提供を受けることが決まった。
「オリンピックに出たら用具がもらえると聞いていたので驚きました。モチベーションがすごく上がって、オリンピックを意識し始めた。それがもっと速くなりたい、もっと上手くなりたいと思うきっかけでした」
[1/3ページ]