「ドカベン」1回しか負けなかった明訓高校 水島新司さんが当初想定していたその相手は弁慶高校ではなかった

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里中智の由来

 3つ目は“明訓高校のエース・里中智の名前は漫画家の里中満智子がその由来である”。里中満智子といえば『アリエスの乙女たち』など代表作多数の大御所女流漫画家。一見、水島とは接点がなさそうだが、『週刊少年マガジン』(講談社)で水島が連載していた『野球狂の詩』の特別版として里中が女性キャラクターを描いたエピソード“ウォッス10番”などで共作している。水島が尊敬する漫画家のひとりが里中だったこと、里中が描くような爽やかな容姿と端正な顔立ちの美形キャラだったため、“里中満智子”から“満”と“子”を抜いて“里中智”と命名されたのである。

 ほかに実在の人物が『ドカベン』の登場キャラクターの名前の由来となった例として、ライバルのひとり江川学院(栃木)のエースである中二美夫(あたる・ふみお)などが挙げられる。栃木県で江川とくれば、実在する強豪校・作新学院のエースで“昭和の怪物”江川卓(元・読売)が思い浮かぶはず。その江川の弟・江川中の“中”が名字、江川の父親・江川二美夫の“二美夫”が下の名前の由来なのである。

敗北の相手は…

 4つ目のトリビアは“明訓高校は3年間で1回しか負けていないが、その相手は当初、弁慶高校ではなかった”。明訓高校は山田たちの活躍で、1年夏の選手権と2年春の選抜で優勝。続く2年夏の選手権を制覇すれば、史上初となる甲子園3季連続優勝を達成することになっていた。だが2回戦で岩手県代表の弁慶高校に惜敗し、3季連続優勝を逃した。どうも作者の水島新司は、この2年夏で明訓に黒星をつけると決めていたそうだ。コミックス版のカバー裏に書かれていた解説で、開会式直後の第1試合で、実は最大のライバルだった土佐丸高校(高知)相手に痛恨の敗北を喫する予定だったと明かしている。

 しかし、実際の相手は弁慶高校だったわけだ。この変更には以下のような理由がある。当時、本作は子供たちの間でブームとなっていたが、そこに突如“ブルートレインブーム”が巻き起こった。これに危機感を感じた水島は「ブルートレインだけは倒しておかねばならない!」ということで、鉄道員養成高校・ブルートレイン学園(東東京)を急遽生み出し、初戦で対戦させたのである。1番・ピッチャーの隼走(はやぶさ・はしる)を中心とした機動力が売りのチームで、寝台特急よろしく夜に強いのが特徴だった。試合開始時間が夕方だったことを利用し、ナイターに持ち込んで明訓を翻弄、あと一歩というところまで追い詰めるも、5-6で逆転負けを喫している。

 一方、当初予定していた土佐丸高校は初戦で弁慶高校と対戦し、0-1で惜敗。こうして2回戦で明訓高校と弁慶高校が顔を合わせることとなったのだ。この弁慶高校の中心選手が、3番・エースの義経光と4番・ライトの武蔵坊数馬だった。コミックス版のカバー裏では〈明訓が敗れるのは、山田太郎を上回るキャラクターが表れた時(※原文ママ)と考えている。それが出てきた気がする。弁慶高校の義経光と武蔵坊数馬だ。(中略)ぼくは対戦の日が来るのが恐ろしくて仕方がない〉と記していた。明訓と弁慶の対戦はこの1回のみ。まさにこの2人は、明訓を倒すためだけに生み出されたキャラクターなのだった。

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