6人殺害、1人行方不明…マル暴刑事が見た「平成の殺人鬼」と呼ばれたヤクザの冷酷

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「トカゲの尻尾切りではダメですよ」

 今回はただのヤクザの抗争事件では済まされない。未解決だった日医大病院事件とともに、群馬県警と警視庁は総力を挙げて捜査に乗り出した。最初に解決したのが日医大病院事件だった。前橋の事件が起きた3カ月後の02年4月、警視庁組織犯罪対策部4課は、実行犯である幸平一家系組員Aを職安法違反の容疑で逮捕した。この時、駒込署から本部組対4課に異動していた櫻井氏は、Aの逮捕、取り調べを担当した。

「Aが池袋界隈で、違法に人夫出しをしていたことを固めたうえでの別件での逮捕でした。もちろん、本丸は日医大です。矢野は弁護士を通してAに戦国武将・荒木村重の伝記を差し入れてきました。荒木が織田信長に謀反を起こした際、荒木の妻子や荒木側についた重臣の家族が皆殺しにされています。『裏切れば身内を含めて皆殺しにするぞ』とも取れる脅迫のメッセージでした」

 Aは最初「俺は言いませんよ」と口をつぐんだ。だが、櫻井氏が根気よく向き合い続けると、最後は「私がやりました」と涙を流して告白した。

「Aは根っからのヤクザ者でしたが、次第に自分の犯した罪の重さに気づき、最後に真人間に戻ることができたんです。彼は『トカゲの尻尾切りだけではダメですよ』と私に言いました。実行犯だけでなく、ちゃんと上の指示役まで捕まえてくれと。そもそも一連の事件は、四ツ木斎場での銃撃事件で警察が実行犯のみを逮捕したことにあります。捜査本部は指示した上の者も罪に問おうと懸命に努力したのですが、証拠が固めきれなかった。しかし、矢野ら住吉会側からすれば、俺たちはやられっ放しで、向こうは野放しじゃないかと不満に思ったのです。勇気を持って罪を告白したAのためにも、私たちは事件の全面解決を誓って捜査を続けました」

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