6人殺害、1人行方不明…マル暴刑事が見た「平成の殺人鬼」と呼ばれたヤクザの冷酷
「これはゲームだ」
この時、櫻井氏は駒込署の暴力犯捜査係の警部補だった。
「私が現場に臨場したのは、石塚が病院に担ぎ込まれた直後のことです。暴力団員が拳銃で撃たれて、組関係者が病院につめかけて大変なことになっているというので、現場の整理のために向かいました。その人だかりの中で、初めて矢野に会った。毛皮のコートを着ていたような記憶があります。この時点では、石塚を殺すよう指示した人間だとは知りません。むしろ矢野は、身内の人間として現場に駆けつけていました」
矢野の様子はおかしかったという。
「病室の様子を見てきた私に対し、『あいつ何か喋っていますか』と聞いてきたので、『何も喋っていない』と答えた。すると、ホッとしたような表情を見せたのです。後でわかったことですが、矢野は私と会った後、見舞いを装って病院関係者から石塚が治療を受けているベッドの位置を聞き出し、実行犯らに襲撃するよう指示を出していました」
すぐに、身内の口封じで事件が起きたという情報が集まり、警視庁は実行犯を割り出した。だが、一人を別件で逮捕するなどはしたものの、本件は詰めきれないままだった。そんな中、抗争は激化。とうとう関係のない一般市民が巻き添えになる、おぞましい事件が起きてしまったのだった。
03年1月に発生した前橋スナック銃撃殺傷事件である。午後11時過ぎ、前橋市内スナックに二人組の男が乱入。店内には大前田一家系の組長がいたが、男らは他の客も含めて無差別に発砲し、市民3人が死亡した。組長は左腕に銃弾を受けたものの命に別状はなかった。
「石塚を使って失敗続きだった返しを完遂しようと、矢野が再び、別の配下の人間を使ってやらせたのです。犯行直前、実行犯は矢野に電話をかけ『スナックに他の客がいますがどうしますか』と相談していました。それに対し、矢野は『中にいる奴は全部、相手の仲間だ。これはゲームだから、深く考えず、やっちまえ』と指示していた」
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