【カムカム】ジョーの自殺を食い止めた場面で…「るい」と「安子」がどんどん似てきた
NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の舞台が大阪から京都に移った。物語はまだ半分ほど残っているが、朝ドラの傑作として語り継がれるのは間違いないだろう。理屈抜きに面白い上、胸を突かれる場面が多く、いつの時代にも通じる生きるヒントが散りばめられているからだ。
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藤本有紀さん(54)がこの作品に込めたメッセージの1つは「生きる時代は選べない。けれど生き方は選べる」に違いない。
安子(上白石萌音、24)は1925年3月に生まれた。この時代に生まれたため、最愛の夫・雉真稔(松村北斗、26)は戦死し、母も祖母も空襲で死んでしまった。
それでも安子はくじけなかった。懸命に芋飴やおはぎをつくり、ひたむきに売った。自分が「ひなたの道」を歩く姿を、一人娘のるい(深津絵里、49)に見せるために。
この作品のモチーフであるルイ・アームストロングの楽曲「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート(「ひなたの道を」)」を意訳すると「明るく前向きに生きる」。歌詞ににこんな一節がある。
「悩みはひとまず置いといて ドアを開けよう 明るい表通りを歩けば 何もかも良くなるさ」
いつまでも悩まず、明るく前向きに生きれば、幸せになれる、ということである。
この楽曲が米国で発表されたのは1930年。大恐慌の真っ最中だった。失業者が大量発生し、自死者が相次いだ。そんな暗い世相を吹き飛ばす意図でつくられた。
こんな一節もある。
「人生は幸せにすることが出来る」
どんな人生にするかは自分次第ということ。いつの時代にも通じる金言だろう。
1963年となった第53話、るいの恋人であるジョーこと大月錠一郎(オダギリジョー、45)が海で入水自殺を図った。トランペットが全ての男なのに、そのトランペットがなぜか吹けなくなったからだ。
原因はプレッシャーによる精神的なものか、職業性ジストニアと称される中枢神経の病か、まったく違う理由か。分からない。
ジョーは絶望して死を決心したものの、るいが海に入り、体を張って止めた。
「サニーサイド(ひなたの道)が見えへんのや」(ジョー)
「怖がらんでいい。私が守る。あなたと2人で、ひなたの道を歩いて行きたい」(るい)
生きる時代を選べないのと同じく、境遇を別なものに置き換えることも出来ない。けれど、やはり生き方は変えられるのである。
ジョーの自殺を食い止めた場面で、るいと安子がオーバーラップした。
安子は和菓子屋のほんわかした少女だったが、稔と出会い、るいを授かったことにより、義弟の勇(村上虹郎、24)らが驚くほど、たくましくなった。
「義姉さんは強い人じゃ。るいを守るためなら、なんだってするじゃろ」(勇、22話)
安子は稔や肉親たちの死に耐え、雉真家の理不尽な仕打ちにも負けなかった。
前を向く気力を失ったのは、稔の分身だと思っていたるいに義絶された時だけである。
るいも18歳で岡山から大阪に出てきたころは内向的な少女だったが、今はジョーを守るためなら、なんだってするはず。強い女性になった。
第58話でるいとジョーはこんなやり取りをした。
「僕とおったらあかん。不幸にしたくない」(ジョー)
「勝手に決めんといて! 何が幸せか、勝手に決めんといて!」(るい)
るいと安子が、どんどん似てきた。この作品の謳い文句である「100年のファミリーストーリー」と「あなたがいたから私です」「これは、すべての『私』の物語。」という3つ言葉が重きをなしてきた。
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