日本が3月から島根・山口沖合で「海洋ガス田」の採鉱を開始する背景

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「武器化」

 ロシアから網の目のように伸びるパイプラインは、冷戦終結後も天然ガスを欧州地域に大量かつ安定的に供給してきたが、足元の状況は様変わりしている。

 天然ガス価格が高騰し、ウクライナ問題でロシアとの対立が深まる中で、欧州では天然ガスのロシア依存が問題になっている。「欧州のロシア産天然ガスへの依存度が高いことにつけ込んでロシアが天然ガス供給で揺さぶりをかけてくる」との論調が高まっている。ロシア産天然ガスの恩恵を最も受けているドイツでも「ロシアが天然ガスを武器化している」と危惧する声が出ている。

 昨年9月に完成したロシア産天然ガスをドイツに送る海底パイプライン「ノルドストリーム2」を稼働させれば欧州の天然ガス価格は確実に下がるはずなのだが、ドイツは従来の「政経分離」の姿勢を転換、ノルドストリーム2稼働の是非をウクライナ問題と関連づける発言をするようになっている。EU委員会も昨年12月、ロシアの天然ガス依存から自立するため、天然ガスの長期契約を禁止する方針を打ち出している。

 天然ガスを「武器化」させているのはむしろ欧州側ではないかと思えてならない。欧州の冷戦終結に寄与した天然ガスが、今や地政学リスクに大きく影響される「戦略物資」になってしまったと言っても過言ではない。

 欧州とロシアの間で深まる溝を尻目に「漁夫の利」を得ているのは米国産LNGだ。

 米国の欧州向けのLNG輸出は昨年12月に過去最高を記録した。欧州の天然ガス価格がアジアのLNG価格よりも高くなったことで、本来アジア向けだったLNGの行き先が欧州向けとなるケースが相次いだからだ。シェール革命のおかげで米国は今年、カタールや豪州を抜いて世界最大のLNG輸出国になる見込みだ。

 欧州がロシアとのガスパイプラインを建設した1970年代、日本は世界に先駆けてLNG輸入に踏み切った。その後世界最大のLNG輸入国の地位を維持してきたが、首位の座を昨年中国に奪われた。米国と中国という超大国が主導的な役割を演じるようになったことから、長らく平穏だった世界のLNG市場も今後地政学リスク(米中の対立)の影響を大きく受けるのではないかと懸念される。

 日本は天然ガスをエネルギー供給の柱に据えている。地政学リスクを考慮した新たな対策を早急に講ずるべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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