減り続ける日本の「お酒」――活路はどこにあるか――都留 康(一橋大学名誉教授)【佐藤優の頂上対決】

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ニューヨークで大吟醸酒造り

佐藤 国内の消費縮小の中で、日本の酒造会社は、いまどんな戦略を持っているのでしょうか。

都留 対応としては、国内とグローバルとの二つの方向ですね。まず日本酒で見ていくと、国内の出荷量は落ち込む一方ですが、その中で純米酒と純米吟醸酒の割合は増えています。微量ではありますが、量としても増加している。

佐藤 つまり高級酒だけは売れている。

都留 きっかけは東日本大震災です。その復興支援で、東北の高い地酒が飲まれるようになりました。デパートやスーパーでも東北支援のお酒コーナーができた。これが非常に効果的で、東日本だけでなく西日本の高級酒も売れるようになったのです。

佐藤 いろいろな銘柄が認知されました。

都留 同時に蔵元ごとに製品の差別化をはっきり打ち出すようになってきました。

佐藤 かつては灘の辛い酒とか、伏見の甘い酒とか、その程度でした。

都留 製品差別化の方向は二つあります。一つは垂直的(機能的)差別化です。その代表例が「獺祭(だっさい)」の旭酒造です。山口の蔵元ですが、ここはもう純米大吟醸酒しか造らない。米を削れば削るほど吟醸の香りが出てきますが、その精米歩合が50%以下のお酒だけにした。

佐藤 獺祭はさまざまな店に置かれるようになりましたね。

都留 旭酒造はニューヨーク州ハイドパークで生産量7千石(一升瓶で約70万本)規模の醸造所を作り、現地生産ももうじき始まります。

佐藤 アメリカで売れると踏んでいる。

都留 もう一つは水平的(意味的)差別化で、江戸時代の酒造りに戻ろうとする秋田の新政(あらまさ)酒造がその代表格です。江戸期のお酒は「生(き)もと造り」でした。酒造りはそれぞれの蔵の酵母が蒸米(むしまい)を発酵させて始まりますが、そこに雑菌が入ると失敗する。それを自然の乳酸菌を増殖させることで、ベールを作って防ぐようにした。これが生もと造りで、江戸時代のイノベーションなんです。

佐藤 味も変わったでしょうね。

都留 その前はおそらくみりんみたいな味だったといわれています。でも明治時代にまた新しい方法が出てきます。乳酸菌を増殖させるなら最初から入れたほうが効率的だと、「速醸法」が登場しました。これによって失敗が少なくなり、発酵までの時間も3分の1くらいに短縮されました。いまの日本酒製造の9割以上で使われています。

佐藤 確立した技術なのですね。

都留 新政酒造の問題提起は、みんな同じやり方で均質化した酒ばかり作っていていいのか、というものです。だから速醸法を使わず、江戸時代のように木桶を使って、かつ、お米も自分たちで作っている。

佐藤 原点回帰ですね。

都留 ただその味が一般にわかるかというと、純米大吟醸と普通酒の違いほどにはわからない。

佐藤 つまりその物語を買うことになる。ブランドと同じです。

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