「発達障害」「うつ」の原因にもなる「腸漏れ」とは? 有害物の脳への“漏れ”を防ぐ食事術
腸とASDの関係
しかし、なぜ腸で起きていることが、ASDにつながるのだろうか。
過去20年以上にわたる研究から、ASDの人の腸内環境は、ASDでない人のそれと著しく異なることが明らかになっている。
一言で言えば、ASDの人の便中には、悪玉菌が健常者に比べて異常に多く、ビフィズス菌などの善玉菌が減少している。腸内細菌とASD発症には密接なつながりがあるのだ。
では、どんなつながりか。両者を結ぶ五つの重要な発見があった。
最初の発見は、ジョンズ・ホプキンス大学のビルミザー教授のグループが2004年に発表したもので、亡くなったASDの人の脳を調べたところ、脳内で炎症が発生していた(発見1)。
発見2は、カリフォルニア工科大学のパターソン教授のグループが05年に発表したもので、「母体免疫活性化」と呼ばれるものだ。
ビルミザー教授のグループとカリフォルニア工科大学のグループによって証明されたのは、妊娠中の女性がウイルスや細菌に感染することによって、母体の免疫系が活性化し、その結果、生まれてくる子のASD発症リスクが高まることだ。
脳の発達を妨げるのは、母体免疫活性化の際に増加するIL6(インターロイキン6)という物質(発見3)だ。これはリーキーガットによる炎症で引き起こされる物質でもある。
さらに18年、アメリカの精神科病院マクリーン病院の科学者は、マウスの実験で、誕生後に、子マウスの免疫系が活性化した場合でもASD様の症状を示すことを発表した(発見4)。
もし赤ちゃんが誕生した後でも免疫系が活性化してASD様の症状を引き起こすのなら、母体以外の何かがその引き金になっているはずである。母体以外の何かとは、食べ物、食品添加物、薬、農薬、毒物や重金属などの環境汚染物質、ストレスなどで、あらゆる有害因子がASDの引き金となり得ると考えられている。
つまり、これらの発見によって以下のことがいえる――。IL6が生じるのは、妊婦の感染によって免疫系が活性化して生じた炎症によるものと、有害因子が幼児をリーキーガットにさせ、幼児の腸に発生した炎症によるものがある。このIL6が脳に移動することで、胎児や幼児の脳の発達が妨げられ、ASDが発症する、と考えられる。
ASDが発症する二つの条件
ここで疑問が生じる。脳は、「血液―脳関門」という関所によって守られているはずである。通常、この関所があるため、IL6のような有害物質は脳に侵入できない。だが、この関所がゆるくなっていれば、有害物質が通過し、脳に侵入することも可能だ。ASDの人の脳ではどうなっているのか?
ハーバード大学のファザーノ教授のグループが、亡くなったASD患者の脳と亡くなった健常者の脳を調べたところ、ASD患者の血液―脳関門では炎症が起こり、組織が損傷し、漏れやすくなっていた(発見5)。
「腸が漏れるリーキーガット」と「脳が漏れるリーキーブレイン」という二つの条件が満たされることで、ASDが発症するのだ。
腸漏れと脳漏れは別個の事象ではあるが、どちらもストレスによって放出されるノルアドレナリンによって炎症が増幅され、漏れやすくなる。
しかも幼児では、この関門が発達途上にあるため、完全に閉じているわけではないから、有害因子の侵入に対して脆弱なのだ。関門が完成した大人でも慢性的にストレスを受ける、あるいは、100dB程度の音楽や拡声器の大音量にさらされるなどによって、この関門がゆるくなることが確認されている。
ここまでをまとめると、荒れた腸内環境がASDを発症させる原因のひとつであることがわかる。そうであるならば、健康な人の腸内細菌をASDの子供に移植すれば、症状は改善するのではないか。
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