「発達障害」「うつ」の原因にもなる「腸漏れ」とは? 有害物の脳への“漏れ”を防ぐ食事術
ASD発症の原因は腸内細菌のバランスの崩れ?
だが、ここにきて一縷の希望が生まれている。ASDの治療法の開発において、腸内細菌の活用が、非常に有望視されているのだ。
脳内に原因があるであろうASDは、腸とは無関係であるかのように思える。ところが、近年、ASD発症の原因は、腸内細菌のバランスの崩れによるリーキーガット(Leaky gut、腸漏れ)であるとする仮説が提出され、しかも、この仮説を強く支持する動物実験や臨床試験の結果が次々に報告されているのだ。
詳しくは拙著『心と体を健康にする腸内細菌と脳の真実』を読んでいただきたいが、ここではリーキーガットとは何かを簡単に説明し、注目されている治療法を解説していきたいと思う。
リーキーガット? 怪しげな横文字と思われるかもしれないが、リーキーガットは、今では科学・医学の世界における一流雑誌でもしばしば登場している。一言で言えば、腸の状態が非常に悪いことを指す言葉である。
以下、専門的な話になるが、お付き合いいただきたい。
食物は歯で噛まれ、胃に蓄えられ小腸で消化・吸収される。タンパク質はアミノ酸に、脂肪は脂肪酸とグリセリンに、デンプンはブドウ糖に、要するに小さな分子に分解され、小腸粘膜から吸収される。吸収された栄養素は血液によって全身を回り、脳と体の組織で使われる。
小腸粘膜は細胞と細胞が密に並んでできていて、細胞と細胞のつながりはタイトジャンクション(TJ)と呼ばれている。もしTJがゆるくなって隙間ができると、本来は通過できないはずのタンパク質、多糖類、細菌、ウイルス、未消化物などの大きな分子がその隙間を通過してしまう。これが「リーキーガット」という状態である(図1)。
誰にでも起こる現象
TJがゆるくなるのは、腸内細菌の種類や総数が著しく減少したり、腸内で炎症が起きたりして腸内環境が著しく悪化することが主な原因であることがわかっている。
小腸粘膜では古い細胞が抜け落ち、新しく誕生した細胞がそれと入れ替わる。この高速新陳代謝を助けているのが腸内細菌だ。もし腸内細菌の種類や総数が減少すると、小腸粘膜をつくる新しい細胞の誕生が、細胞が抜け落ちていくスピードに追いつかなくなる。
このため小腸粘膜が極端に弱くなり、TJがゆるくなるのだ。腸内で悪玉菌が増えて、善玉菌が減っても、同じことが起きる。このようにリーキーガットは稀なことではなく、誰にでも起こりうる。
リーキーガットになると小腸粘膜細胞の隙間から異物が体内に入ってくる。この異物を破壊するために、免疫系が放った活性酸素が逆に腸を傷つけ炎症を起こす。炎症が局所にとどまることもあれば、全身に広がることもある。
こうしてアレルギーや、稀に、それより重症なアナフィラキシーが引き起こされる。これを「リーキーガット症候群」と呼ぶ。
腸に炎症が起きた結果、便秘、腹痛、下痢、発熱の他、皮膚では発赤や腫れ、湿疹、痒みが現れ、精神的にも不安、うつ、イライラするなど、多様な症状を示す。リーキーガットは万病の源であり、ASDもそのひとつなのである。
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