元公安警察官は見た ロシアスパイが東芝子会社社員を油断させるために使った意外な“素性”

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 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。9月に『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、イタリア人コンサルタントに扮したロシアスパイについて聞いた。

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 日本で活動するロシアのスパイの中には、他の国の人間を装う者がいるという。

「彼らが狙っているのは、日本の軍事兵器やコンピューター機器の情報です」

 と語るのは勝丸氏。同氏はかつてロシアを担当する公安外事1課に所属していた。

「そのため、軍事兵器を製造している三菱重工や川崎重工、大手のコンピューター会社では、社内でロシアのスパイからどうやって身を護るか研修しているといいます。彼らがいかにして機密を知る社員を協力者に仕立てるか、その手口を具体的に伝授しているのです」

 2005年10月、駐日ロシア通商代表部のウラジーミル・サベリエフが「バッハ」という名のイタリア人コンサルタントを名乗り、東芝子会社の社員に接近、半導体情報を入手していたことがメディアで報道された。

ロシアスパイがよく出没する幕張メッセ

「イタリアにも諜報機関がありますが、周辺国だけでしかスパイ活動はしていません。イタリアのスパイが日本に来ることはまずありません。イタリア人と言えば、日本人に警戒されないと思ったのでしょう。サベリエフはイタリア語が堪能で、服装もおしゃれでした」

 サベリエフと子会社社員は2004年春、千葉・幕張で行われた電気機器の展示場で出会った。

「幕張メッセの展示会には、よくロシアスパイが出没します。サベリエフは当時、外事1課がマークしている人物で、ロシア対外情報局(SVR)の所属であることも分かっていました。SVRは軍参謀本部情報総局(GRU)と並ぶ諜報機関で、GRUが各国の軍関係者をターゲットにするのに対し、SVRはハイテク企業の関係者をターゲットにします」

 サベリエフは2000年、ロシア大使館員として初来日しその後帰国したが、2003年10月、通商代表部員として再来日していた。

「幕張の展示場には、公安の捜査員が何人も入ってスパイを監視していました。サベリエフが現れたので、彼のその後の行動を徹底的に追いました」

 サベリエフは東芝子会社社員に、「私はイタリア人のバッハと言います。コンサルタントをしているので協力して欲しい」と言って接近したという。

「サベリエフが名刺交換した人物はすべて尾行しました。自宅を突き止め、勤務先などを調べるのです。会場に来るのは一般人が多いのですが、その中で東芝の子会社に勤務している人物がでてきたので、『これは何かある!』となったのです」

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