レスリング「藤波朱理」は現在86連勝中 伊調馨氏“全日本スタッフ入り”のウラ
自由度の高い新ポジションに伊調馨氏
さて日本レスリング協会は、東京五輪の後、18年会長を勤め、女子レスリングを盛り上げた福田富昭会長(80)が勇退し、ロサンゼルス五輪の金メダリスト富山英明氏(64)が新会長となる新体制となった。強化本部長は、スーパースター二人(伊調馨、吉田沙保里)の不在で心配された東京五輪で金5、銀1、銅1の好成績を残した西口茂樹氏から赤石光生氏(バルセロナ五輪銅)が引き継ぐ。
中でも注目されるのが、五輪4連覇の伊調馨氏(37、ALSOK)の指導者として初めての全日本代表入りである。肩書は「アントラージュコーチ」。
「アントラージュ」とはフランス語で「取り巻き」や「環境」の意味。協会独自に設定したわけではなくJOC(日本オリンピック協会)が取り入れ出した。アスリートがパフォーマンスを最大限発揮できるように連携協力する関係者がアントラージュコーチだという。
技術面やトレーニング内容だけではなく選手の悩みの相談相手などにもなる。
とはいえ、専任コーチのように時間などが束縛されることは少ない。この肩書で女子の指導は伊調馨氏、男子は和田貴広氏(国士舘大監督)が選ばれた。
富山新会長は「超大物女性」を新ポストに迎えた理由について「アントラージュコーチというのがどういう立場なのか、よく彼女に説明しました。最近『オリンピック4連覇の彼女はいったい、何をしてるんだろう』のような声もよく聞く。こちらからお願いした形です。所属会社(ALSOK)や日体大さんなどの思惑もあるようですが、そんなことにとらわれずにレスリング界のために貢献してほしい」と説明する。
伊調氏の全日本スタッフ入りについて協会関係者は「協会が日本代表の所属先の大学や企業、自衛隊などから新体制のスタッフ入りを打診していたようです。ALSOKや、現在選手を指導している日体大から『伊調馨さんを』との要望で協会は新ポストを作ったようです。伊調氏本人はあまり乗り気ではなかったとか」と話す。赤石新強化本部長も「打診してもだいぶ悩まれていて(受け入れる)回答があったのは最近」と打ち明けていた。
協会関係者は「新首脳陣は至学館サイドが栄和人氏を推して来たらどうしようかとも悩んだようですがそれはなかった」。現在、栄氏は全日本スタッフ入りを全く求めていないようだ。「娘の希和さんが至学館大学のコーチで、全日本のコーチにもなっています。伊調が至学館のコーチになることはもう無理でしょう。栄氏が監督に復帰していますし」。
今大会も栄氏や希和さんがマットサイドで教え子たちに声をかけていた。
女子レスリング界で長らく、栄氏が率いる至学館大学の後塵を拝してきた日体大としては、協会内での存在感を高めるためにも全日本のスタッフに大物関係者を送り込まない手はない。「パワハラ騒動」となった栄氏と袂を分かったものの、所属などが宙に浮いていた伊調選手に手を差し伸べたという自負もあろう。
レスリング現場一筋の伊調氏はまだ明確な引退宣言はしていない。「求道者」的な性格が強く、吉田沙保里氏のように現役時代からサービス精神旺盛でテレビ局の要求にこたえるような側面も少なく、引退後、タレント活動などをしている吉田氏とはかなり違う。
「伊調氏は技術面や精神的アドバイザーとの位置づけですが全日本チームの海外遠征なども同行は場合によるということで、実際は日体大の選手以外にはさほど関わらないのではないか」(協会関係者)
富山会長は「専任コーチと違って来られる時に来ていただき、自由に選手のサポートをしてもらえれば」と話す。伊調氏の「自由度」も重視しているようだが、どの程度関わるのかまだ不明だ。
伊調氏がコーチとして指導する日本体育大学は今春から藤波朱理が本格的に拠点とする。藤波朱理について富山会長は「彼女は本当に強い。ルックスも可愛らしくパリ五輪も楽しみですよ。今年からはお父さんも日体大のコーチも務めると聞いているが、女性の体は急に変わっていく。そういう面でも女性の伊調さんのアドバイスも受けられるのは大きいでしょう」と話す。
肩書は何でもいい。伊調氏には誰もなしえなかった五輪4連覇への道程の経験を最大限、生かして「オリンピックでしか注目されない」と揶揄されるレスリング界を盛り上げてほしい。
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