朝ドラ歴代ベスト3の予感がする「カムカム」 吉田潮イチオシの名場面は?

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 三が日のドラマを書こうと思っていたが、心打つ作品がなかった。昨年は逃げ恥とか若冲とか教場とか、各局が割と尖っていたのに、今年はド定番&置きにいった感。なので朝ドラに。ヒロインが3人もいるし、ここらで書いておかないと、絵ヅラが大渋滞しちゃう。個人的には、歴代ベスト3に入る予感もあるのでね。

 上白石萌音が演じた橘安子編は、朝ドラの古参ファン待望の戦前・戦後を描いた。和菓子屋の娘・安子の格差恋愛、幸福の日々、大きな喪失感と苦難、そして想定外の不運。ヒロイン3人ってことで、通常よりも駆け足なのかと思いきや! 無音の状態で動揺や慟哭を演じきる萌音はもちろんのこと、それぞれの役者の見せ場がきっちり入っていたところがいい。安子が嫁いだ雉真(きじま)家で言えば、物腰は柔らかいが家制度に固執する段田安則、2度も安子にフラれる村上虹郎、長男溺愛のいびり屋・YOU、そして幼いるい(古川凛)に不安を刷り込んだ女中の岡田結実。それぞれの深くて重い心情描写を随所に差し込んでいたので、短くてもしっかりドラスティックで、満足度が相当高かった。

 根底に感じたのは「親の心、子知らず」。まず安子の父・金太(甲本雅裕)の息子・算太(濱田岳)に対する思い。手癖が悪く、さぼり癖もあるお調子者でふがいない算太を諦めてはいたものの、愛情は深かった。算太の出征時に見送らなかったことを後悔し、死に際の幻覚の中で算太に謝る。一瞬現実と思わせるトリッキーな場面だったが、甲本の心情描写には引き込まれた。

 そんな父の愛が届いたとは思えないほど算太は厄介で、愚行を繰り返す。後に、安子の一生を変えてしまう元凶となるが、濱田が演じるとなぜか憎めない。類まれなる憎まれない才能。

 本筋ではないが、荒物屋の父子がいた。弱者の身ぐるみ剥がすような商売を営む父(堀部圭亮)を息子(石坂大志)が咎める。「阿漕(あこぎ)なケチべエじゃ」と。その直後、空襲で堀部は息子をかばって死ぬ。親の心知るも時すでに遅し……。細部にも主題を匂わせる妙。

 なんといっても名場面は「I hate you」だ。安子がアメリカ人と密会、るいは自分を捨てたと思い込む。実際は金を持ち逃げした算太を探し、疲労困憊でぶっ倒れ、ロバート(村雨辰剛)に介抱されただけ。安子は全力で愛を注いできたが、るいは心を閉ざしてしまう。

 母娘は「お互いを最も残酷に傷つける言葉」を知っている。独特の鋭さと悪意がある。一番言われたくないことや心を抉るような言葉は、たいてい母娘間で交わされるのだと改めて思う。

 で、そのるいが母への遺恨を抱えたまま大阪に出てきたのが、るい編。深津絵里が驚愕の瑞々しさで怪演中。口元が緩くてこぼしまくるも情は深そうなオダギリジョーと共に、人情溢れる古き良き時代の大阪を魅せる(大阪メンバーがまた濃厚でね)。るいが安子の心を知る時は来るのか。違う形でその娘・ひなた(川栄李奈)に託すのか。母娘の心情描写リレーが楽しみだ。もう1回書くことになるな。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2022年1月20日号掲載

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