内村航平 引退会見でも語られなかった「美しい体操」の基礎を作った3年間

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変わらない情熱があふれていた

 内村は3月12日、6種目すべての演技を行うイベントを開催するという。最初に聞いたとき、それが引退興行になるのかと思ったが、そうではないかもしれない。

 フィギュア・スケートの選手は引退するとプロになる、という独特の路線がある。オリンピックや世界選手権などには出場しない。採点競技からは離れる。しかし氷上で演じる活動は続ける。

 競技大会とは別に、体操の演技を披露するパフォーマンスの場……これまで一般的ではないが、内村はその路線も頭に描いているのだ。何しろ、会見の発言の端々からも、体操への変わらない情熱があふれていた。できることならやめたくない、体操はまだ続けたい、といった言葉もあった。それが、競技者から演技者への転身という発想なのだろう。

 会見の中では、「ウチムラ」と名の付いた技がないまま引退することへの思いについても質問を受けた。実は跳馬で「シライ/キムヒフン」という名前がついた技を白井健三が世界選手権で成功させる3年前に、全日本選手権の種目別決勝でやったのは自分だと少し意地も見せた。が、それほど悔しさはないとも語った。

 しかし、内村にはまだ可能性がある。演技会の中で今後新たな技を発表し、提案していくことも内村にはできる。もちろん、それが正式にウチムラの名で呼ばれないとしても、それを開発したのが内村だという認識と敬意は持たれ続けるだろう。そんな方向性も内村の未来には広がっている。

内村に相応しい条件と言えるのか

 また指導者として力を発揮することを、当然ファンも期待している。引退会見の日、次のような報道もあった。

〈日本体操協会は14日の常務理事会で、男子の強化本部にアドバイザーコーチ部門を新設し、内村、白井健三氏らの就任を承認。具体的な活動内容は未定だが、シニアとジュニアの両方を幅広く指導していくという。協会関係者は「現役からすぐにコーチとなり、実績を強化選手やナショナル選手たちに伝えたい意図がある」と説明した〉(スポニチ・アネックス)

 当然といえば当然。だが、ちょっと失礼といえば失礼な決定のように私は感じた。詳細は報じられていないが、一体どんな条件で内村にその役目を委嘱するのだろう。従来の慣習でいえば、無償(ボランティア)か、JOCの専任コーチに準じた報酬だろうか。プロを宣言し、前人未到の実績を残した内村に相応しい条件と言えるのだろうか。

 また、アドバイザーコーチという曖昧な職責で、オリンピックなどの大勝負にどれだけ内村の力が投入されるだろう。内村に続く、あるいは内村を超える次の星を育成するなら、もっと濃密で専任的なコーチングが前提であるはずだ。まだ指導者より演技者を志向する内村にとってそのくらいがちょうどいいなら理解もできるが、本当に指導者を目指すとなった場合、日本の体操界には長期にわたって経済的な不安を感じずに指導に専念できる環境が十分に整っていない現実を共有し、改善する必要がある。

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