元公安警察官は見た ロシアスパイの奇妙な習性と、次の密会場所の割り出し方とは?
公安向け特殊講座
「外事1課は主にロシアのスパイ活動を見ていますが、彼らは日本人と話す時は日本語、外国人と話す時は英語を使います。そのため、英語やロシア語の読唇術ができる捜査官が必要なんです」
読唇術は特殊技能である。どこで習得するのか。
「読唇術の先生を警察庁に招いて研修を行っていました。一般の警察官向けではなく、公安捜査員用の特殊講座です。また、個別に読唇術の先生宅に通って研鑽を積んでいる捜査員もいます。英語やロシア語の読唇術ができる捜査員は、いずれも留学経験のある人たちでした」
読唇術によって、ロシアのスパイの動きを解明することがよくあるという。
「ある時、ロシア大使館にいるGRU(ロシア軍参謀本部情報総局)のスパイが日本企業の幹部と接触しているという情報をキャッチしました。彼を尾行すると都内のレストランに入ったので、5人の尾行チームもカップルやサラリーマンに扮して店内に入りました」
GRUのスパイは、企業の幹部とは知り合って日が浅かったようで、その時は世間話しかしなかった。
「ロシアのスパイには奇妙な習性があって、彼らは情報源と会う時、必ずその場で次回の会合の日取りを決めます。『後で連絡します』とは決して言わず、『この次の予定を決めましょう』と最後に言うんです。しかも、彼らは後から予定が変更されることをひどく嫌います。そのため、一度次の日時と場所が決まったら、まず変更はないと考えていいのです」
会話の内容がわかれば、次回は先に店に捜査員を配置して2人が現れるのを待てばよい。わざわざ尾行する必要はなくなる。
「2人の会話を高性能収音マイクで録音したところ、案の定次の会合のことを話していました。ところが、会合の日時は聞き取れたものの、場所は周りの音にかき消されてしまいました。そこで撮影した動画を読唇術ができる捜査員に見てもらい、次は巣鴨(東京都豊島区)で会うことがわかりました。ただ巣鴨としかわからなかったので、当日、多くの捜査員を巣鴨駅周辺に配置すると、スパイが現れたのです」
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