脱炭素にはつながらない嘘だらけのEV推進政策――岡崎五朗(日本自動車ジャーナリスト協会理事)【佐藤優の頂上対決】

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日本車のCO2排出量は減った

岡崎 いま自動車会社は、トヨタやマツダ、スバルなどが一緒になって、敵は炭素、マフラーから出るCO2だと言い始めています。つまり内燃機関が敵ではない。EV以外にもCO2を出さなくする解決法があるということです。例えば、水素を使った合成燃料をエンジンで燃やせば内燃機関は残ります。またマツダはバイオディーゼルに取り組んでレースを始めています。

佐藤 自動車会社はEV開発だけに絞っているわけではないのですね。

岡崎 もちろんトヨタもEV化を加速させていますが、ハイブリッドも続けるし水素にも取り組んでいます。日産はリーフを作る一方、世界最高効率のエンジンを開発中だと発表しました。つまりEVもハイブリッドもやる。もし合成燃料を使うことになったら、高価ですから、燃費をよくしないといけないんですよ。またスバルやマツダは、トヨタからハイブリッドシステムを調達しながら、自社の技術と組み合わせて研究を進めています。

佐藤 技術のポートフォリオを作っているのですね。一つの方向に定向進化させてしまうと、何かあったときに脆い。

岡崎 1970年代に、ホンダがCVCCという画期的なエンジンを開発したことがありました。当時、カリフォルニア州では排ガス規制のマスキー法という厳しい法律が制定され、それをクリアできたのはそのエンジンだけでした。でもそのすぐ後に、三元触媒法という方式を使った、より優れた排ガス浄化技術が生れた。いま道路を走っている車は、全部それを使っています。あのときCVCC以外を禁止してしまっていたら、すべての自動車ユーザーが不利益を被ったでしょう。技術の進化を正確に予想するなんて誰にもできない。だからこそ一つに決め打ちするのは危険なんです。

佐藤 海外の会社はもうEVだけなんですか。

岡崎 2021年にGM、ジャガー、ホンダ、ボルボ、メルセデス・ベンツが「EV宣言」をしています。ジャガーは、グローバル販売台数が10万台でプレミアムブランドですから、価格が高くてもクルマさえ魅力的なら転換できるでしょうね。GMはEV化のために欧州、ロシア、インド、タイのほか、オーストラリアから事業を引き揚げ、先進国の裕福な層を相手とするプレミアム路線に舵を切りました。

佐藤 中流上層以上へのビジネスになる。

岡崎 一方、ベンツは「2020年代末までに、すべての商品をEV化する準備を進める」と発表しましたが、続けて「コンディションが許すマーケットがあれば」と付け加えています。これをスルーして、メディアは「すべてEV化」と書いている。

佐藤 日本のホンダも宣言しています。

岡崎 三部(みべ)敏宏社長がEVとFCV(燃料電池自動車)をグローバルで100%にすると発表しましたが、その直後の記者会見で「バッテリーはどこで調達するのか」「そんなに売れるのか」と聞かれて、「実に難しい」と繰り返しているんです。ホンダはフルラインで600万台弱のメーカーです。世界のあらゆる場所でさまざまな階層に、高い車から安い車まで売ってきた。その600万台をEVに置き換えられるかは、はなはだ疑問だと思います。

佐藤 ボルボはどうですか。

岡崎 ボルボは中国資本になりましたが、スウェーデンのメーカーです。彼(か)の国は原子力発電と水力発電でほぼ100%ですから、EVとは親和性が高い。自動車評論家の池田直渡さんによれば、ボルボはフォード傘下から出た際、エンジンとシャシーを作り直すことになり、エンジンがうまくいかなかった。だからEVしかなかったといいますね。

佐藤 事情があるのですね。

岡崎 実は日本を走っている自動車のCO2排出量はこの20年間で23%減っています。アメリカは9%増、CO2削減をあれほど叫んでいるドイツも3%増やしています。

佐藤 日本はなぜ減ったのですか。

岡崎 ハイブリッド車と軽自動車のおかげです。いま日本の新車販売の40%が軽自動車です。軽自動車は作る時に部品が少なく、CO2排出量が少ない究極のエコカーです。だからガラパゴス扱いせずに、ハイブリッド車とともに、もっと世界に普及させるべきです。日本は自国のいいものを発信するのが下手ですが、いまこそきちんと発信していくべき時だと思いますね。

岡崎五朗(おかざきごろう) 日本自動車ジャーナリスト協会理事
1966年東京生まれ。青山学院大学理工学部機械工学科卒。在学中から執筆活動を始め、自動車雑誌各誌に寄稿。2008年よりテレビ神奈川「クルマでいこう!」のMCを務める。YouTubチャンネル「全部クルマのハナシ」運営。著書に『SDGsの不都合な真実』(共著)、『EV推進の罠』(共著)など。

週刊新潮 2022年1月13日号掲載

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