脱炭素にはつながらない嘘だらけのEV推進政策――岡崎五朗(日本自動車ジャーナリスト協会理事)【佐藤優の頂上対決】
EVは雇用問題
佐藤 もしこのまま国策としてEVへ切り替えていくと、日本の自動車産業はどうなりますか。
岡崎 まずバッテリーから考えると、EVは40%ほどがバッテリーのコストになるんですね。バッテリーは、問題があるとはいえ中国が進んでいて、材料となるリチウムやコバルトなどのレアメタルも握っています。
佐藤 中国は、それらが採れるコンゴ民主共和国を押さえています。
岡崎 もしバッテリーを中国に依存するとなったら、自動車産業62兆円のうち40%、ざっくり25兆円分が中国に流れることになります。その分、国内の雇用が減る。だからEVにするなら、バッテリーを国内生産しないとダメです。ヨーロッパでは、EV化は中国を利するだけだと気がついて、EU内に工場を作っています。
佐藤 次の手を打っている。
岡崎 またEV化すれば、エンジンやトランスミッションなどの部品も材料も減ります。これらを製造している中小企業は大きな打撃を受けることになる。
佐藤 つまり大きな雇用問題になるわけですね。
岡崎 その通りです。最近ようやく言われ始めましたが、EV化は自動車産業で働く550万人の問題なのです。長期的に見れば、新しい技術が導入され、過去の技術の需要が減っていくのは仕方のないことですが、いま起きているのは、政治主導の急激な変化です。
佐藤 時間があれば業種転換できますからね。
岡崎 ええ、時間的猶予が必要です。よくガラケーからスマホへは急に変わったじゃないか、と言う人がいますが、その時に政府はガラケーを規制したわけでも、スマホに補助金を出したわけでもありません。EV推進で得をするのは、中国やヨーロッパです。なぜ国内産業を潰すようなことを政府がやっているのか理解に苦しみます。そもそも何を買うかはユーザーが決めることです。
佐藤 この社会がどれだけEVを求めているか、という根本的な問題がありますね。
岡崎 EV推進派の中には、EVでなければ自動運転ができないと主張する人もいます。でもそんなことはありません。確かに自動運転と相性はいいのですが、グーグルの親会社アルファベットがアメリカのアリゾナ州フェニックスで行っている実証実験はハイブリッド車を使っています。私が取材したエンジニアも、全員がガソリンでもハイブリッドでもできると言っています。
佐藤 自動運転は安全性の問題もありますし、車をコンピュータ化させますから保険の問題もあります。事故が起きた時の修理費を考えると、保険料はとんでもなく跳ね上がります。ちょっとぶつかっただけでもコンピューターは壊れますから。
岡崎 いまの技術では、まだ人間の目以上の感度を持つセンサーはありません。ではカメラをたくさんつければいいかというと、その情報をプロセッシング(処理)する能力の高いCPUが必要で、そこですごく電気を食うことになります。
佐藤 すると走行距離が短くなる。
岡崎 EVと自動運転を結びつけて語る人たちはそこを理解していない。そもそも自動運転自体、そう簡単には実現できません。私が生きている間には、普通の人がマイカーとして買うクルマが自動運転になるかもしれないな、程度に考えています。
佐藤 それだと、EVも自動運転も先進国の一部でしか普及しないでしょうね。
岡崎 はい。とくに自動運転は公共交通機関が先になると思います。例えばタクシーで、運転手の年収が500万円とします。1台を2人で使うので、人件費は年間1千万円です。5年なら5千万で、それならEV自動運転タクシーが4千万円でも5年で元がとれる。
佐藤 また地域限定のバスや、車がないと生活できない山間部のバスならうまくいくでしょうね。
岡崎 そこはどんどんEVも自動運転も進めていけばいいと思います。
佐藤 私が実際にEVが普及しているなと思ったのはイスラエルですね。あの国は隣国と戦争していますから遠くまで走る必要がない。
岡崎 大きな国ではないし、そもそも産油国とは仲が悪いですよね。
佐藤 また軍事訓練を受けた人が多く、爆弾装填の技術の延長でバッテリーをうまく交換できるそうです。だからEVに向いている。でも日本は条件が違う。
岡崎 私はEVが不要だと考えているわけではありません。条件がそろった人や場所なら、どんどん使えばいい。ただEVに脱炭素が求められているとしたら、それは違っていて、そんなに減らないということです。
佐藤 基本的な部分で齟齬(そご)があるわけですね。
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