渋谷「焼肉屋」立てこもり事件、新幹線殺傷事件…「刑務所に入りたい」という動機の凶悪犯罪が多発している理由
一般市民は不安
同じく昨年5月、茨城県つくば市に住む職業不詳の40代の男性が、母親の首をベルトのようなもので絞めて殺害した容疑で現行犯逮捕された。
水戸地裁の裁判員裁判は11月、男性の仕事が長続きしないことや、母親が家賃を滞納していたことなどから、「将来への不安を感じ、刑務所に入りたいと考えたために殺害した」と認定。懲役12年の判決を下した(註4)。
「刑務所に入りたいという動機で、全く落ち度のない人々が命を落としたり、重いケガを負わされたりしているわけです。親が被害者となった事件が目立つのも考えさせられます。犯罪件数は全体としては減少傾向にあります。その分、こうした事件が余計に目立つということもあるでしょう。『被害に遭うリスクは高まっているのに、どう気をつけていいのか分からない』と途方に暮れている人や、『電車に乗る時に不安を覚える』という人も珍しくないのではないでしょうか」(同・記者)
無銭飲食と凶悪事件
元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏は「刑罰を受けたいという動機から行われた犯罪は、大まかに言って3つに分類できると思います」と解説する。
【A】短期的な懲役刑を希望し、故意に軽微な犯罪を犯す者
【B】長期的な懲役刑を希望し、故意に重い犯罪を犯す者
【C】極刑を希望し、重大で凶悪な犯罪を犯す者
「昔も今も、年末年始に頻発するのが【A】のタイプでしょう。例えばホームレスの人の中には、自由を望んで路上で生活しており、基本的に監視されることを嫌う人もいます。そのため刑務所に入ろうとは考えない人が多いのです。ところが冬の寒さが厳しくなったりすると、“緊急避難”的に無銭飲食といった軽微な犯罪に手を染める人が出てきます」(同・若狭氏)
一般的に、【A】タイプの犯罪者は過去にも同じことを繰り返している。無銭飲食自体は軽微な犯罪だとしても、前科が多数あるため刑務所に送られるのだ。
「【A】タイプの犯罪は倫理的には問題でも、彼らの精神構造が全く理解できないわけではないでしょう。一方、【C】のタイプは、それほど頻発するわけではありません。犯罪者にとっても実行には精神的なハードルが高いからだと思われます。我々にとって心理的な理解が難しく、なおかつ最近、多発しているイメージがあるのは、【B】のタイプだと考えていいのではないでしょうか」(同・若狭氏)
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