渋谷「焼肉屋」立てこもり事件、新幹線殺傷事件…「刑務所に入りたい」という動機の凶悪犯罪が多発している理由
無期懲役で万歳三唱
土浦事件は模倣犯を生んだことでも注目を集めた。通り魔という犯行内容だけでなく、被疑者が「死刑になりたかった」と供述するケースが増えたのだ。
「ところが近年、『刑務所に行きたい』という犯行動機が報じられる事件が増えてきました。例えば、2018年6月に起きた東海道新幹線車内殺傷事件です。小島一朗受刑者(犯行当時22歳)は、新幹線『のぞみ』の車内で女性2人をナタで切りつけてケガを負わせ、男性1人を殺害しました。裁判では『刑務所に行きたい、それも“無期懲役囚”になりたい』と発言。19年12月、実際に無期懲役の判決が下ると、被告は法廷で万歳三唱しました」(同・記者)
新聞のデータベースを使い、2018年以降に起きた犯罪を調べてみた。逮捕された被疑者が「刑務所に行きたかった」と供述したと報じられた記事は10件を超えた。その中から、いくつかご紹介しよう。
2020年5月、清掃活動中の男女2人をトラックで故意にはねたとして、住所不定・無職の盛藤吉高被告が逮捕された。
犯行当時は50歳。盛藤被告は事故の数日前に出所したが、再び刑務所に戻ろうと盗難車のトラックで2人をはねて殺害した。
「昨年6月から福島地裁郡山支部で裁判員裁判が開かれました。裁判では殺された男性の妻も出廷し、『大切な主人を返して欲しいという願いはもうかなわないですが、犯人の夢をかなえることだけはやめてください』と訴えました。検察は死刑を求め、判決も死刑でした。盛藤被告は判決を不服として控訴。11月に仙台高裁で控訴審の初公判が開かれました」(同・記者)
「刑務所に入りたい」
20年12月、奈良県奈良市に住む40代の男性会社員が、寝ている父親の首を手で絞め殺害しようとした容疑で逮捕された。
会社員は「刑務所に入りたかったので、父を殺そうと思い、首を絞めた」(註2)と動機を説明。裁判でも「刑務所に入れば仕事に行かずに済む」と考えていたことが明らかになった。
21年3月、20代の無職の男性が、埼玉県さいたま市に住む母親の背中を刺し殺害した容疑で現行犯逮捕された。男性は仕事によるストレスなどで同年1月に家出。ネットカフェを転々としていたが、3月に帰宅して母親を殺した。
殺人罪で起訴された男性には、昨年12月、さいたま地裁での裁判員裁判で、懲役10年の判決が下された。裁判長は「刑務所に入って人生をやり直すしかないと考えた」という犯行動機について、「短絡的で身勝手」と非難した(註3)。
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