「デジタルの牢獄」と化したウイグルの恐ろしい実態…収容所送りにされた少女「メイセム」の証言

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床にセンサー、シャワー室にカメラ

 その日からメイセムは、強制収容所の監視システムについて多くを学んだ。誇らしげな党の幹部が、自分たちの“能力”について囚人に向かって自慢げに話すこともあった。彼らは、囚人をたんに脅そうとしていただけではない。ひねくれた方法ではあるものの、そこには相手を感心させようとする思惑もあるようだった。

 カメラは、女性用トイレやシャワー室にも設置されていた。メイセムによると、男性の看守たちが制御室からこれらのカメラの映像を見て、音まで聞いていたという。メイセムがそれを知ったのは、制御室の開いた戸口から室内をこっそりのぞき込んだときだった。壁一面に、収容所のカメラの映像を映し出すモニターが並んでいた。

「わたしたち囚人が生きるも死ぬも、それは政府次第」

 そう思い詰めて過ごすメイセムだったが、幸いにも方々に手を尽くした母親の献身が奏功し、この拘留センターを出ることに成功する。再び「再教育センター」に連れていかれたメイセムは故郷を離れる決意を固めた。ただそれを実行するために、彼女は恐ろしいほどの代償を払うことになる。

 愛する母親と別れる瞬間、母親はこうメイセムに伝えた。

「これで、きっとしばらく会えなくなる。でも、あなたに与えられた贈り物のことを忘れないで。あなたが経験したことは、贈り物なのよ。だって、あなたは安全なところに行き、そこで成長できる。ここで何が起きているのか、やがて世界は知ることになる」

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 ウイグル自治区研究の第一人者でドイツ出身の人類学者、アドリアン・ゼンツによれば、2016年から2017年にかけて新疆の学校、警察署、スポーツセンターがつぎつぎに拘留施設へと改修され、くわえて地域の治安維持の予算が92.8%増加していた。

「収容されている人数は最低でも10万人、最大で100万人強にのぼると考えられます」とゼンツは私に説明した。100万人強というのは、ウイグル人住民1100万人の約10分の1に相当する。

 これはゼンツが調査をはじめたばかりの早い段階の数字、のちに彼は推定値の上限を引き上げ、2017年の春以降、拘留施設に収容された人数は最大で180万人にのぼる可能性があると訴えている。

ジェフリー・ケイン Geoffrey Cain
アメリカ人の調査報道ジャーナリスト/テックライター。アジアと中東地域を取材し、エコノミスト誌、タイム誌、ウォール・ストリート・ジャーナル紙など多数の雑誌・新聞に寄稿。2020年発表のデビュー作『Samsung Rising: The Inside Story of the South Korean Giant That Set Out to Beat Apple and Conquer Tech』(『サムスンの台頭』[未訳])はフィナンシャル・タイムズ紙とマッキンゼー社が主催するビジネス本大賞候補に選ばれた。現在はトルコ・イスタンブールに在住。本書執筆のために168人のウイグル人の難民、技術労働者、政府関係者、研究者、学者、活動家、亡命準備中の元中国人スパイなどにインタビュー取材を行った。Twitter:geoffrey_cain

濱野大道(はまの・ひろみち)
翻訳家。ロンドン大学・東洋アフリカ学院(SOAS)卒業、同大学院修了。訳書にロイド・パリー『黒い迷宮』『津波の霊たち』(早川書房)『狂気の時代』(みすず書房)、グラッドウェル『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』(光文社)、レビツキー&ジブラット『民主主義の死に方』(新潮社)などがある。

デイリー新潮編集部

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