「デジタルの牢獄」と化したウイグルの恐ろしい実態…収容所送りにされた少女「メイセム」の証言
居間にカメラ、さらに家族全員の“検査”
「選択の余地などありませんでした」とメイセムは振り返った。
「わたしたちにできることなんてなかった。当局に抵抗すれば、逮捕されるだけですから。みんながみんなを監視して、密告し合っていた。誰も信用なんてできません。わたしたちは地元の電気店に行って、適切なカメラを探しました」
電気店に行ってみると、多くの店で品切れ状態になっていることがわかった。最近のおもな顧客である警察が、あらゆる製品を買い占めていたのだ。適切なカメラを見つけるのは簡単ではなかったが、一家はやっとのことで見つけだした。
購入後、技術者が家にやってきて、壁に埋め込まれたプラスチック製のケースのなかにカメラを設置した。そのためカメラを勝手にいじったり、電源を切ったりすることはできなかった。居間だけでなく、小さなマンションの広い範囲が映り込んだ。くわえて、音声も記録された。
「母とわたしにとって、それは絶望的なことでした」とメイセムは言った。
「むかしから家はわたしたちみんなにとって、望むことはなんでもできる場所だった。本を読み、会話し、本音を語ることのできる場所だった」
メイセムと母親は居間を使いつづけた。しかし、いつものように本を並べたり、文学や世界情勢についての率直な議論をしたりするのは避けた。
だがこれでは足りなかった。その1ヵ月後、政府からの新たな通知をもってガーさんが戸口にやってきた。家族全員で地元の警察署に出向き、“検査”を受けろ。一家が怪しいと判断されたため、こんどは家族全員への“検査”が義務づけられたのだった。
そこで身体検査に加えて、採血、声と顔の記録、DNAサンプルの採取が行われた。
「役所に来てください」
「ある日、地区の当局から携帯電話に連絡がありました」とメイセムは振り返った。陳全国という人物が新疆のトップに就任してからおよそ1週間後、2016年9月のことだった。
「役所に来てください。今日は大切なお話がありますので」と職員は言った。
「ふだんなら役所には母といっしょに行くのですが」とメイセムは私に語った。
「でもその日は母の体調が悪かったので、ひとりで行ったんです」
「外国からの帰国者は全員、再教育センターに行ってもらいます」と職員は言った。
「大切な会合がありますので、出席してください。その場所で1ヵ月にわたって勉強することになります」
職員は“その場所”がどんなところなのか具体的には説明しなかった。
「1ヵ月?」とメイセムは声をあげた。
「大学院に戻らないといけないんですけど!」
予定では、2週間後にトルコに戻って修士課程の最終年をはじめることになっていた。
ガーさんも庁舎内におり、出入りする全員に眼を光らせていた。彼女が親切にしてくれているのか、あるいは脅そうとしているのか、メイセムには判断がつかなかった。ガーさんはいつも礼儀正しかったが、信用できない人物だった。
「よかった、まだ中国にいたのね。もう離れてしまったんじゃないかと思っていたんです。大きな変化があるようですよ。これがわたしの指示じゃないってことは理解しておいてくださいね。陳全国の指示なんです。彼は大きな計画を立てているっていう噂ですよ。つぎに何が起きるのか、わたしにはわかりません。でも、再教育のまえにあなたにお伝えしておきたくて」
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