「デジタル化」と「DX」はどう違う? 陥りやすい勘違いを専門家が解説
会社の風通しを良くする
現場が数字に弱かったり、意思決定者が決断できないなど、この四つの過程のどこかでつまずくと、単にデジタル技術を導入しただけで、データを活かせなくなり、DXとはいえない状況になってしまう。また、「経験と勘」だけの経営では生まれない、会社の風通しを良くする作用もあるのです。
この「サイクル」そのものに違和感を覚えるビジネスパーソンは少ないと思います。なぜなら、従前から日本企業が取り組んできたことだからです。
日本企業の製品は概して品質が高いですが、その「品質管理」の手法を各企業が高いレベルで導入し、維持できたのは、アメリカの数理統計学者のエドワーズ・デミング博士(1900~1993)の功績が大きいといえます。デミング博士は戦後、来日し、日本で行われた国勢調査に携わった人物です。また、統計学を用いた品質管理も専門で、日本各地の企業で講演し、その重要性を説いて回りました。バブル期の日本でアメリカと貿易摩擦が生じていた時期、アメリカで「なぜ日本の製品はこれほど品質が高いのか」について原因を探ったら、デミング博士の教えに行き着いたんですね。その意志を継いだ日本の学者も多く、博士はいわば「メイド・イン・ジャパン」の生みの親です。
これがトヨタの「カイゼン」の源流ですが、デミング博士が伝授した日本の品質管理の強みは「現場と現場監督レベル」の小さなグループ内でデータを共有して、課題を解決できることなんです。もしかしたら、日本企業ではこの手法があまりに上手くいったので、IT投資が遅れたという側面はあるのかもしれません。つまり、ちょっとしたパソコンとリアルなコミュニケーションがあれば、オペレーションをデジタル化しなくてもいいじゃないか、と。
ただ、前述した通り、デジタル化の波は容赦なく企業を襲います。「カイゼン」のように、本来、日本企業はデータを活用した業務の改善を得意としてきたはずです。弊社へのデータ活用に関する企業からの相談は年々倍増し、コロナ禍でさらに増えた印象を持っています。
すでに勘の良い企業や経営者はDX=デジタル技術の導入のみにとどまらない、という点に気づいているのです。
[5/5ページ]