「デジタル化」と「DX」はどう違う? 陥りやすい勘違いを専門家が解説
データを活用する必要がある
・社内書類のPDF化
これは初歩の初歩ですが、社内で今まで紙で印刷していたものをとりあえず、PDFにしてみる、というものです。ただ、これでは単なる紙の節約にしかなりません。
これに加えて、
・紙の書類や名刺などをOCR(光学文字認識)にかけ、データで取り込む
こともあるかもしれません。名刺の文字情報がデータ化され多少便利になるとはいえ、書類のPDF化と並んで、これだけでは売り上げが上がることはない。
もうちょっと進めた施策になると、
・紙ベースや古いシステムで行っていた業務を仮想サーバー(クラウド)に移行する
・工場に温度、圧力などを測るセンサーを多数設置し、オンライン上で管理できるようにする
などになります。書類をデータ化する先の例よりも進んでいるように見えますが、これではデジタル技術を導入しただけです。このようにデータを集めただけでは意味がなく、それを可視化し活用できるようにしなくては、会社の売り上げには貢献しません。
ここでいう「データ」とは何か。いろいろありますが、メーカーなど製品を売る企業であれば、「購買層データ」が挙げられます。男女、年齢などの属性、製品の購買履歴などですね。そのほかに製品を作るためのデータもあります。製造に必要な部品は何があるのか、設計の過程、品質検査、出荷履歴などです。では、これらのデータを活用して、売り上げを伸ばし、利益を増やすにはどうすればいいのか。
データを分析できる人材
その際、多くの企業が考えるのは、データを分析できる人材の採用です。
最近、脚光を浴びる職業にデータサイエンティストがいます。データを解析して、その結果をもとに企業の課題を解決に導く「データ分析の専門家」です。しかし、いまデータサイエンティストは引く手数多(あまた)。大学でもデータサイエンティストを育成しようと力を入れていて、実際、横浜市立大学にはデータサイエンス学部があり、私も客員教授を務めています。ただ現状では、人材も豊富とはいえず、国内の中小企業がデータサイエンティストを採用しようと、年収1千万円の条件を提示しても、大手企業や外資系などに獲られてしまい、その企業に来てくれるかわからない状況です。
また、仮に採用できたとしても、その企業の業務の実態がわからなければ、的確な意思決定を下すことは困難でしょう。伸び悩む業績を解決しようと、コンサルに外注したが、出てきたレポートは会社の実情に沿わないものばかりでまったく参考にならなかった、という経験をされた経営者は少なくないと思います。それと似たような状況が起きてしまうのですね。
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