大谷MVP受賞の背景に迫る 下半身のフィジカル強化、バットの素材変更がポイント(小林信也)

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イエローバーチ

 もうひとつ、大谷が21年に向けて変えたのがバットの材質だ。MLB強打者の主流はハードメイプル。打球音は金属バットのように高い音で響く。金属バットに近い反発力でボールを飛ばす。

 前年まで大谷は、日本の強打者が長年好んできたアオダモを使っていた。やわらかく、しなりが利く。ボールを長く乗せて押し込む感覚がある。それをメイプルの硬さに近いイエローバーチに変えた。「弾き返すイメージに変えたい」と大谷が望んだからだ。バーチは、アオダモほどのしなりはないが、メイプルに比べたらやわらかい。弾きながら乗せる感覚もある。そのバットから46本のホームランを生みだした。

 前半戦と後半戦の打撃の違いを大谷は雑誌「ナンバー」の取材にこう答えている。

「後半に関してはほぼほぼ甘い球がない中で、それでも集中して打席に立って、(中略)そこで打ったホームランは、前半で打ったのとはまるっきり違うものだったと思います」

 それが21年を通して大谷がつかんだ覚醒だったのかもしれない。理想の打ち方を求めるのでなく、常に勝負と向き合う切迫感。大谷が身を置く厳しい闘いの怖さを垣間見た思いがする。

 だが私にはどうしても、荒川の声が聞こえた前半戦のホームランがまぶたに浮かぶ。投手に、そこに投げさせたかのように、捉えて飛ばす。打つ前のほんの一瞬、ボールが止まったかのような不思議な間合いに魅せられた。

 果たして、楽々捉える一打と苦しみの中で打つ一打、どちらが大谷をさらなる高みに押し上げるのか。来季はそこが気になる。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。大学ではフリスビーに熱中し、日本代表として世界選手権出場。ディスクゴルフ日本選手権優勝。「ナンバー」編集部等を経て独立。『高校野球が危ない!』『長嶋茂雄 永遠伝説』など著書多数。

週刊新潮 2022年1月13日号掲載

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