大谷MVP受賞の背景に迫る 下半身のフィジカル強化、バットの素材変更がポイント(小林信也)

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 印象に残っているホームランは? と帰国会見で聞かれた大谷翔平は、「うーん」と唸ったあと、

「この一本というのはないですかねえ。まず46本打てたのが一番かと思います」

 と答えた。だが、大谷がないと言ってもファンにはあるだろう。例えば5月17日のインディアンス戦、左腕ヘンジスから打った13号だ。外角の高いボールを右中間スタンドに運んだ。捕手がミットを持つ左腕を上に伸ばしている。

「目の高さを打った!」

 他球団のファンやライバルたちをも驚嘆させた。地元ラジオ局のホストは「ショウヘイ・オオタニがバリー・ボンズのようなホームランを叩きこんだ」とツイートした。この一本の衝撃が大谷を全米随一の存在に押し上げた。そして、夢の球宴に向けショウヘイ・フィーバーが過熱した。

 私はこの一打を見た時、

(荒川博さんなら、何と言っただろう……)

 と思った。王貞治を指導し、一本足打法を生んだ功績で知られる荒川コーチだ。

「ほら見ただろ、オレがいつも言うとおりだ! あの高さが一番飛ぶんだよ」

 きっとそう言って、目尻を下げて笑っただろう。

 私は荒川の晩年の約1年、神宮外苑に通い、荒川が少年たちに打撃指導する場に寄り添った。少年を教えながら、王に伝授した打撃論を熱心に話してくれた。

「パクッと行け! そうだ、高い球をパクッと、大根斬りでいいんだ、最高だよ」

 よくそう叫んだ。大谷の13号の後ろで、荒川の声が聞こえるようだった。一方、

「低めだって飛ぶんだぞ。ボールの下に入れば角度がついてグーンと上がるよ」

 そう言って人懐っこい目を細めて私を見た。これも、大谷の低め打ちに通じる。

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