【鎌倉殿の13人】初回放送を考察 軽薄でピリッとしない頼朝像が吹き飛んだ瞬間

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 初回の放送が済んだNHKの新大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が面白い。脚本を手掛けている三谷幸喜氏(60)の持ち味が早くも存分に発揮されている。主人公・北条義時役の小栗旬(39)や源頼朝役の大泉洋(48)ら出演陣の演技も大河にふさわしくレベルが高い。初回を考察したい。

 初回の見せ場は頼朝と八重(新垣結衣、33)の息子・千鶴丸(太田恵晴、4)が殺されてから。殺害を命じたのは八重の父・伊東祐親(浅野和之、67)である。

 祐親は源氏の宿敵で圧倒的権力者だった平清盛(松平健、68)の家人。15歳の時から流刑人として伊豆国に置かれている頼朝の監視役を任せられていた。

 そんな立場でありながら、娘に手を付けられ、子供までつくられた。おまけに頼朝本人は逃走した。激怒するのは分かる。

「源頼朝、あの男だけは許さん」(祐親)

 けれど、年端もいかぬ自分の孫まで殺してしまうとは、いくらなんでも無慈悲である。

 一方、頼朝は北条家の離れにいた。義時の兄・宗時(片岡愛之助、49)によって匿われた。けれど、どうもピリッとしない。祐親から追われているのに義時の姉・政子(小池栄子、41)と蹴鞠に興じたり、双六をやったり。まるでバカ殿である。

 千鶴丸の死を義時から知らされても人間らしい怒りや悲しみを見せなかった。

「仕方あるまい。それがあれの定めであったのだ」(頼朝)

 おいおい、それはないだろうと思っていたら、やはり腹の内は違った。

 頼朝が冷酷で計算高い性格だったのはよく知られている。我が子を亡き者とし、自分への敵意を剥き出しにする人間を許すはずがない。頼朝は秘かに祐親を殺す適任者を探していた。

 選ばれたのは工藤祐経(坪倉由幸、44)だった。シラミがわいていた小汚い武士である。自分の見張り役をやっていた。

「祐親を殺せ」(頼朝)

「はぁ?」(工藤)

「私の命となれば、お主も気が楽であろう」(頼朝)

 闇雲に殺害依頼をした訳ではない。頼朝は情報収集にも長けた人物だったことが知られている。工藤が祐親を憎んでいることも掴んでいたのである。

 工藤は伊東家の嫡男ながら、後見人だった祐親の裏切りに遭い、領地を分捕られた。それだけではない。祐親の娘・万劫御前を妻に迎えていたものの、離縁させられた。祐親は工藤の全てを略奪した。

「祐親を殺すのだ」(頼朝)

「かしこまりました」(工藤)

 殺害依頼にあたって頼朝側は工藤の生活も保障した。流刑人で明日も分からぬ身なのに良い度胸だった。伊豆国の支配者で自分の監視役である祐親を殺せば、活路が開けると踏んだのだろう。やはり計算高く、怖い男である。

「伊東祐親、決して許さん!」(頼朝)

 それまでの軽薄な頼朝像が吹き飛んだ。凄みがあった。いつもながら大泉の演技は硬軟自在である。

 あわれだったのは千鶴丸。祐親の忠実な下人・善児(梶原善、55)によって伊東大川に沈められた。後にそれを知った八重は供養し続け、やがて伊東の地に千鶴丸の菩提寺「最誓寺」を創建する。

 初回の視聴率は既に報じられている通り、世帯が17.3%で個人全体が10.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。前作「青天を衝け」における初回の世帯20.0%よりかなり下だが、その大きな理由は舞台となる時代が大河では人気薄の平安期から鎌倉期だからだろう。

 むしろ、T層(男女13~19歳)とF1層(女性20~34歳)の個人視聴率の高さに目を引かれた。世帯が11.2%だった「青天を衝け」最終回(12月26日放送)と比べ、F1層は2倍弱、T層は実に4倍以上だった。若い視聴者には三谷脚本や小栗、大泉、新垣らの出演陣が魅力であるようだ。

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