日本兵が戦地に携行した「寄せ書き日の丸」が“返還ラッシュ”の理由 遺族と返還者が感じる“癒やし”
「こんなことがあるんだ!」
そんな日の丸を、彼らと戦った敵である連合国の兵士たちは、戦利品として持ち帰った。ケイコの祖父の日の丸も、多くの人たちの思いが綴られたものだった。
「本当にショックでした。一体これは何? どういうこと?って。私たちが知っていたのは“1945年6月27日死亡”。それと小さな石だけ。それなのに、こんなに時間が経ってから急に、祖父にまつわる事実が突然目の前に現れたんですから」
それは、ちょうどお盆の頃だった。祖先の霊が戻ってくると信じられている時期だ。
「こんなことがあるんだ!そう思いました」
ケイコは、この出来事を誰にも話したことがなかった。自分たちだけに起こり得たあまりにも特殊な体験だと思ったからだ。だが、残りの人生を共に過ごすと決めた人には全てを打ち明けたいと思ったのだった。
そしてレックスは、ケイコの打ち明け話を聞いている最中、何かに打たれたのだ。それは、いっときの感傷でも、結婚を許可してもらいたいがための芝居でもなかった。
こうして二人は、元々の所有者に日の丸を戻すための活動、「オボン・ソサエティ」を始めたのだった。
ネット上で売買される「寄せ書き日の丸」
私事で恐縮だが、私が“寄せ書き日の丸”の存在を知ったのは、6年前、ニュージーランド人の友人が、オークションサイトで購入した「寄せ書き日の丸」を遺族に還したいのでどうしたらいいか、と連絡してきたことがきっかけだった。
彼は、手元に届いた旗を見たとき、まるで昨日まで兵士が持っていたかのような保存状態と、美しさ、白地全面に書き込まれている肉筆による文字、ところどころにある焦げのような色褪せた薄茶色の染みに圧倒された。それら全てが“持ち主のところに帰りたい”と訴えているように思えたという。
私は、このとき初めて「寄せ書き日の丸」がネット上で売買されていることを知った。検索すると、驚くほどたくさんの「寄せ書き日の丸」がヒットした。模造品も多かったが「ホンモノ」もたくさんあった。
オボン・ソサエティを通して返還したいと希望する人の中にも、オークションサイトで旗を購入した人がいる。メリーランド州に住んでいるアロン・マッカーサー(50)もそんな一人だ。
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