「新庄」「立浪」より地味だけど…現役は活躍できずに指導者で花開いた“現役名コーチ列伝”
スポーツの世界では“名選手、名監督にあらず”という格言があるが、現在のプロ野球界を見てみると、2022年シーズンから指揮を執る日本ハム・新庄剛志、中日・立浪和義両監督にも代表されるように、実績を残した選手が監督となるケースが多い。一方で、選手としてはほとんど実績がなくても、優秀な指導者になるケースも少なくない。今回は名選手ではなかったものの、指導者として花開いた現役の名コーチにスポットライトを当てたい。【西尾典文/野球ライター】
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ダルビッシュ、大谷、有原の才能開花に貢献
投手コーチで長くその手腕を発揮してきたのが、オリックスの投手コーチに就任した厚沢和幸だ。現役時代はドラフト2位で日本ハムに入団し、二軍ではノーヒット・ノーランも達成するも、一軍では実働7年、42試合に登板し0勝4敗という数字に終わっている。
引退後はすぐに二軍投手コーチとなると、07年からは一軍投手コーチに就任。その後スカウトに転身した時期はあったものの、長くコーチを務めてダルビッシュ有(パドレス)、大谷翔平(エンゼルス)、有原航平(レンジャーズ)などの才能開花にも大きく貢献した。
また、厚沢と同じサウスポーで、チームを支え続けている宮西尚生からの信頼も厚く、14年オフに国内FA権を行使せずに残留を表明した際の会見では「厚沢さんを日本一のコーチにしたい」というコメントも残している。監督ならともかく、コーチに対してこのようなコメントが出るのは異例のことであり、チームは実際に16年に日本一に輝いている。
昨シーズン終了後に栗山英樹監督の退任に伴って選手時代から27年在籍した日本ハムを退団したが、今年からはオリックスの投手コーチに就任することとなった。ライバル球団からすぐに声がかかるというのは、その手腕の表れと言える。チームは山本由伸や宮城大弥など強力な先発陣を誇るが、リリーフ陣は大ベテランの平野佳寿の後継者が大きな課題となっているだけに、新コーチがどのようにブルペンを立て直していくかに注目だ。
内野守備と走塁のスペシャリスト
厚沢と同じ投手担当では、畝龍実(広島)もまた、今回のテーマに当てはまるコーチと言える。現役はわずか4年と短命で、一軍登板は通算7試合と全く実績はなかった。引退後は長くスコアラーを務めると、動作解析による若手投手の成績向上が評価されて、14年シーズンに一軍投手コーチ兼分析コーチに就任。当初の2年間はなかなか結果が出なかったものの、中崎翔太や今村猛、一岡竜司、中田廉といった若手リリーフ投手陣を一軍の戦力に押し上げ、チームのセ・リーグ3連覇にも大きく貢献した。
緒方孝市監督が退任した後も、その手腕が評価されてチームに残留。20年からは三軍統括コーチ(今年からは三軍統括コーチ兼矯正担当)となっている。大瀬良大地、九里亜蓮という先発の柱は、FA権を行使せずに残留したとはいえ、投手陣の底上げはチームの課題だけに、若手と故障者を担当する役割として、今後もその手腕にかかる期待は大きい。
一方、野手担当を長く務めているコーチとして目立つのが松山秀明(ソフトバンク)だ。PL学園時代は桑田真澄、清原和博などと同学年で主将を務め、3年夏の甲子園では決勝戦でサヨナラヒットも放っている。青山学院大を経て1989年のドラフト5位でオリックスに入団したが、プロでは9年間のプレーで一軍通算25安打にとどまっている。
引退後はオリックス、阪神、起亜(韓国)、ロッテでコーチを歴任し、18年からは指導者として5球団目となるソフトバンクのコーチに就任。二軍、三軍の若手選手の底上げを担当している。コーチとしての役割は一貫して内野守備と走塁を任せられており、その道のスペシャリストと言える人材である。引退後も常にユニフォームを着続けて、一度も現場を離れていないというのもその手腕をよく物語っている。
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