ドイツの電気料金は63%アップ…環境原理主義がもたらす“緑のインフレ”という病

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電気料金が63%アップ

 ドイツが主導してきた欧州連合(EU)域内の二酸化炭素(CO2)排出量取引制度(ETS)も物価上昇に拍車をかけるとの警戒感が広がっている。ETSはCO2を排出する権利を市場で売買する仕組みだ。発電所や航空会社などCO2排出量が多い事業者がその対象で、上限を超える量を排出する場合、その分の排出量を購入しなくてはならない。多くの企業はEUが求めるCO2削減目標に追いつかず、購入を余儀なくされている。投機資金も流入したせいで先物価格が昨年12月上旬に1トン当たり90ユーロと最高値を更新し、1年前の約3倍の水準となってしまった。対象企業は排出権の調達コストを自社の製品・サービス価格に転嫁しているため、インフレを加速させる要因となっている。ポーランドやチェコ、スペインが価格高騰を抑えるための制度変更を求めているが、ドイツは現状維持の姿勢を貫いている。

 日本でも「緑のインフレ(グリーン・フレーション)」という用語が人口に膾炙するようになったが、ドイツでは天然ガス価格の高騰でインフレが始まったことから「ガスフレ」と呼ばれることが多い。

 ドイツの昨年12月の消費者物価指数(CPI)は前年比で5.3%上昇した。11月の5.2%を上回り、1992年6月以来、約30年ぶりの高い伸びを示した。エネルギー価格の上昇率は18.3%で、11月の22.1%よりも若干下がったものの、CPIを押し上げる主要因のままだ。

 ドイツの11月の生産者物価指数(PPI)も前年比で19.2%上昇し、10月の18.4%に続き、2カ月連続で1951年以来の大幅な上昇を記録した。エネルギー価格は前年比49.4%上昇した。

 ドイツのインフレは今年も続く可能性が高い。

 ドイツでは通常、電力・ガスの契約は1年ごとに更新されるが、ドイツの約420万世帯の今年の電気料金が平均63.7%上昇し、360万世帯のガス料金は62.3%値上がりする見通しであることがわかった(1月5日付ロイター)。石炭及び天然ガスを燃料とする発電所の調達コストが上昇したことや再生可能エネルギーの生産量が減少することなどがその理由だ。

「環境原理主義」とも言える政策のせいでグリーン・フレーションが今後も続けば、ドイツ経済が苦境に追い込まれる事態にもなりかねない。エネルギー価格の高騰の影響は広範囲に及び、制御不能な場合が多いからだ。

 インフレの進行は経済成長(個人消費)の伸びとセットであれば悪影響は少ないが、ドイツの小売売上高の伸びは昨年後半からインフレ率を下回る傾向が鮮明になっており、これまで好調だったドイツ経済が景気後退(リセッション)に陥るリスクが生じている。

 昨年末までに天然ガス卸売価格は100%近く上昇したことでドイツの電力会社が軒並み資金繰りに苦しんでいることも気がかりだ。

 自業自得とはいえ、ドイツ経済は今年中にも「緑の不況(グリーン・セッション)」という病に冒されてしまうのではないのだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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