「漫才ってアニメにはならないんですよ」 ハライチ岩井が『ワンオペJOKER』の宮川サトシと熱く語り合う

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ファンタジーをどう無駄に使うか

宮川:単純に短編小説としてとても面白かったのですが、最初はその「仕掛け」に気がつかず、途中でハッとさせられました。主人公の「僕」が異世界である「裏の世界」に迷い込んでその世界のスーパーで買い物をして戻ってくる……というストーリーのなかで、わざわざ異世界に行っているのに、特別なことが本当に何も起きない。裏の世界で買った豚肉を、表の世界に戻って料理して食べるけれど、害があるわけでもなく美味しい。僕だったら、例えばお店の看板の文字だけでも反転させた描写を入れるのにな~なんて考えながら読み進めたのですが、そういったことは書かない方が逆に違和感を際立たせて面白いということに、読み終わって気がつきました。野暮なことを考えたなと、自分を恥じました(笑)。

岩井:僕も、ファンタジーの世界に日常を持ち込むのが好きなんですよ~。

宮川:そういう意味では、岩井さんと僕は、拳法の使い手としては同じ流派なんですよね。でも、同じ流派を学んできた僕でも、岩井さんの小説のオチには、まるで去り際に背中を切られたような心地になりました。

岩井:あはは! しまった!と(笑)。

岩井も共感した「子育て」とは

岩井:これは本を刊行した際の取材でもよく話したのですが、今回初めて小説を書いてみて、エッセイと小説の違いがますます分からなくなりました。正直、僕の場合、エッセイを「小説風」に書いて、タイトルに「小説」とつけただけとも言えるので。宮川さんはご自身でエッセイ漫画も描かれていますが、エッセイ漫画とストーリー漫画では何か違いを意識されたりしますか?

宮川:作品によって違いますが、例えば、今、原作を担当している『ワンオペJOKER』では、子育てでの実体験を元にストーリー部分を作っています。なので、そういう意味では、僕の実体験=エッセイ漫画を主人公のジョーカーに演じさせている、とも言えるかもしれません。

岩井:『ワンオペJOKER』、大好きです。それこそ、『バットマン』や『ジョーカー』の世界観を舞台に、バットマンの敵役・ジョーカーが子育てをするという設定がまず面白いですよね。しかも育てるのは、不慮の事故でなぜか赤ん坊になってしまった、バットマンという(笑)。なのにDCコミックス公式だし。ジョーカーが赤ちゃんバットマンを育てる「日常」は、子どもがいない僕でもすごく楽しめました。

宮川:わ、それは特に嬉しい感想です。ありがとうございます。

岩井:なぜ子どもがいない僕でも楽しめるかというと、『ワンオペJOKER』しかり『ティラミス』しかり、「あるある」が詰め込まれているからだと思っています。「あるある」のアイディアって尽きませんか?

宮川:尽きないですし、今日は岩井さんと「あるある」についてむちゃくちゃ話したかったので……今、猛烈に喜んでおります!

岩井:おお。

宮川:少し前に岩井さんが「ハライチのターン!」(TBSラジオ)で、「あるある」を突き詰めて考えていったら、「あるある」の真理に到達した回が大好きで、繰り返し何度も聞きました。

岩井:ああ、ありましたね。「あるある」、大好きなんですよ~。

宮川:実は僕も「あるある」とは何か?を追究した経験がありまして……。少し長くなりますが、話してもいいですか?

岩井:どうぞどうぞ(笑)。

《岩井勇気×宮川サトシ対談 その2》に続く

岩井勇気(いわい・ゆうき)
1986年埼玉県生まれ。幼稚園からの幼馴染だった澤部佑と「ハライチ」を結成、2006年にデビュー。すぐに注目を浴びる。ボケ担当でネタも作っている。アニメと猫が大好き。特技はピアノ。累計10万部を超えるヒットとなったデビューエッセイ集『僕の人生には事件が起きない』に続いて、第2弾『どうやら僕の日常生活はまちがっている』も6万部を突破し大きな話題を呼んでいる。1月6日に原作を担当した漫画『ムムリン』1巻が発売した。

宮川サトシ(みやがわ・さとし)
1978年岐阜県生まれ。東京で暮らす地方出身妖怪たちの悲哀を描いたギャグ漫画『東京百鬼夜行』で2013年に漫画家デビュー。最愛の人を亡くした哀しみを描いて多くの共感の声を生んだエッセイ漫画『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』は映画化もされた。現在は週刊新潮にて『俺は健康にふりまわされている』、週刊モーニングにて『ワンオペJOKER』(原作)、週刊イブニングで『SUPERMAN vs 飯 スーパーマンのひとり飯』(原作)などを連載中。

デイリー新潮編集部

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