「水谷豊」独占80分 松田優作との思い出、「相棒」の舞台裏、体力維持と老いを語る
無理に抗わない
精神面だけでなく、体力を維持するためにはどんな努力をしているのだろう。
「数年前からトレーニングを止めました」
予想外の返事だった。そのきっかけをこう説明する。
「僕は20代の前半に肩を痛めていて、でも若いから治療もしないで過ごしていたんですね。だましだまし身体を鍛えたりして。そのうちに肩に水が溜まって、腕立て伏せとか、水泳も辛くてできなくなった」
その頃、あるトレーナーと出会い、もう身体を酷使するのは止めようと考えるようになった。
「その人が『身体を特別に鍛えなくても、生活できるだけの筋力体力があれば、それでもう健康ですから、これ以上、身体をいじめなくてもいいですよ』と言ってくれたんです。どうも、それが僕に合っていそうな気がして。だけど足は弱るから、大事にした方がいいですね。何はともあれ足。幸いなことに、僕は撮影現場で歩き回ることが多くて、足は鍛えられています」
老いはまだ先のことに思えるが、若い頃なら考えられない失敗談はあるだろうか。
「この間、ビックリしてね。携帯電話で友だちと話しながら、『ない、ない』って一所懸命携帯を探している自分がいた。凄くショックだったのよ(笑)」
その手の話なら、私も事欠かない。部屋を移動したあと、何をしに入ったのか忘れてしまうとか。
「でも、そんなこともあるよね、くらいの感じで慣れてきた。それ以降もあったから。朝、鏡の前でウガイをしていたのね。ウウウペッて吐き出したら、シンクの手前だったんですよ。これが最近のショック。もう、(老いが)来ちゃったのかと思ったけど、無理に抗わない。そういう自分も愛おしく思えてきたから」
水谷が考える「若さ」とは
けれど、彼は休むことなく前進を続けている。映画の監督を始めたとき、「60代で3本撮る」と決意したが、その3本目がクランクアップしたのだ。公開予定は今年22年。
「今回はクラシックのオーケストラをテーマにして、その人間模様を描きました。地方のアマチュアの交響楽団です。経済的に苦しくて、解散しなければならないほど追い詰められている人たちに小さな奇跡が起きる。ちょっとしたジャパニーズドリームを起こしてやろうと思って創ったんです」
映画のタイトルは「太陽とボレロ」、現在は仕上げの作業中だ。60代で3本撮り終えたが、それで終わるつもりはなく、70代でも映画を撮りたいと思っている。
「もう止めてくださいと言われない限りは(笑)」
最後に、彼が考える若さについて尋ねた。
「基本的に物事をネガティブに捉えないこと。考え方捉え方ひとつで、同じことが楽しくなったり、つまらなくなったりします。僕にとっての若さは、いつか終わる人生なら、できる限り楽しく過ごそうと思っていることでしょうか」
「相棒」の長台詞のように、苦痛に思われることを喜びに変えて、人生を楽しむ。豊ちゃんがどう生きてきたかは、人を包み込むような温かな笑顔に凝縮されている。
[5/5ページ]