【カムカム】「安子」と「るい」を和解させるキーマンは?こんなにある伏線を読み解く

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

 NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」が放送開始から3カ月目に入った。昨年12月23日放送の第39話から始まった「るい編」も佳境を迎えつつある。次の「ひなた編」の兆しも見え始めた。この朝ドラをあらためて考察したい。

 娘・るい(深津絵里、48)と母・安子(上白石萌音、23)には決定的な違いがある。るいは孤独で陰がある。

「『るい編』は明るい」と評する向きもあるが、それは時代背景が華やぐ高度成長期だからに過ぎないだろう。るい自身のキャラクターが明るい訳ではない。

 祖父・千吉(段田安則、64)も死期が目前に迫るまで、るいのことを案じていた。

「心残りは、るいのことじゃ。あねい明るかった子が声を出して笑うこともなくなって…」(千吉、第39話)

 るいは安子と生き別れとなった後、故郷の岡山では心を許せる人が誰もいなかった。それもあって故郷を捨てた。

 るいの孤独や内向を表しているのが作品にたびたび登場する「心の中の声」の多さである。安子は1度としてなかった。

 るいが住み込みで働く大阪・道頓堀の「竹村クリーニング店」の店主・平助(村田雄浩、61)とその妻・和子(濱田マリ、53)も暗さを見抜いている。

「ワシはあの子の笑った顔が悲しそうにしか見えへんや。あの小さい細い体で、どんだけのものを背負ってるんやろ」(平助、第43話)

 安子の場合、戦前から戦後を生きたから、その苦労は並大抵ではなかったものの、やさしい母・小しず(西田尚美、51)がいた。誠実な父・金太(甲本雅裕、56)、温かい祖母・ひさ(鷲尾真知子、72)もいた。

 3人が他界した後も喜びも悲しみも分かちあえる幼なじみで親友のきぬちゃん(小野花梨、23)がいた。兄の算太(濱田岳、33)も2人で貯めた独立資金を持ち逃げするまでは気の許せる肉親だった。

 るいの孤独は平助と和子の温かさによって解消されつつあるものの、このままでは根本的な解決には至らない。心から笑えるようになるのは自らが義絶を告げた安子と和解を果たした時にほかならない。

 そもそも全て誤解なのだ。安子はるいと離れるつもりがなかったものの、るいが雉真家を出ることを、千吉が頑として許さなかった。るいの額の傷を治すためには雉真家の財力が欠かせないと強弁された。安子にとっては殺し文句だった。

 それでも安子は雉真家の近くに住もうとした。安子はるいにこう説いた。

「会えへんようになるわけじゃねえ。るいのお弁当だって毎日持ってくる」(安子、第37話)

 ところが、算太の持ち逃げから運命の歯車がガタガタと音を立てて狂い始める。

 算太を探す時の安子は半狂乱だった。それはそうだ。るいとの未来がかかっていた。上白石が迫真の演技を見せた。

 算太を必死に探す途中、安子は倒れる。不憫に思ったGHQ将校のロバート・ローズウッド(村雨辰剛、33)が抱擁すると、それをるいが見てしまう。自分が棄てられたと絶望し、まだ6歳ながら安子に義絶を言い渡した。

 今度は安子が絶望する。「るいが私の幸せです。なによりも、るいが一番大事なんです」(安子、第38話)と、言っていたほど愛情深い母親なのだから。ロバートに誘われるまま、るいを忘れたくて渡米したのも無理はない。

数々の伏線

 今後、るいと安子は和解するかというと、間違いなくする。疑う向きは番組のホームページを確認していただきたい。るいの言葉で「あなたがいたから私です」とある。母娘の和解の証にほかならない。

 2人を和解に導く人物は算太ではないか。そもそも算太の持ち逃げからボタンの掛け違いが生じたのであり、この男がるいに真相を話せば誤解は解ける。

 るいと算太を引き合わせるのはこわもての田中(徳井優、62)と見る。第41話でクリーニング店に現れ、るいに背広のポケットに穴が開いていると因縁を付けた男だ。

 田中の登場が初めてではなく、1939年という設定の第7話にも出ていたのはご記憶の通り。算太への借金と取り立てが目的だった。1962年なった今も算太が大阪に居たら、田中と接点がある可能性がある。

 岡山から大阪に出てきたのは、るいだけではないようだ。第47話。るいはクリーニング店の客の1人であるトランペッターのジョーこと大月錠一郎(オダギリジョー、45)が出演するサマーフェスティバルに出向く。ジョーがレギュラーで出ているジャズ喫茶「ナイト&デイ」のフェスだ。

 楽しい場になるはずだった。ところが、るいは泣き出す。ジョーがルイ・アームストロングの「On the sunny side of the street(ひなたの道)」を吹いたからである。

 るいと安子、そして稔の思い出の曲だ。るいは安子に棄てられたと思い込んでいるから、この曲を聴くと泣けてくる。

「忘れたかったのに。忘れるために岡山を出たのに…」(るい、第47話)

 ジョーにとっても思い出の曲だった。「ナイト&デイ」のオーナー・木暮(近藤芳正、60)がるいに明かした。

「あいつの『sunny side』は特別やから…」(木暮、第47話)

 おそらくジョーは、岡山で柳沢定一(世良公則、66)がやっていた喫茶店「Dippermouth Blues」の周辺でたむろしていた戦争孤児である。当時、12万人以上いた戦争孤児は行政の保護を満足に受けられていなかった。

 ジョーと思われる少年は第28話、第29話に登場した。その身なりは泥と汗にまみれていた。店に入る金はなく、外からジャズのレコードに耳を傾けていたから定一に疎まれた。

 少年が聴いていたのが「On the sunny side of the street」。肉親を失い、食うや食わずの生活する中、ひなたの道を歩きたかったのか。そう考えると切ない。

 ジョーと思しき少年の最大の伏線は第31話にある。この少年は一転、身ぎれいになり、やさしそうな男性と「Dippermouth Blues」でコーヒーを飲んでいた。この男性がトランペッターだったのだ。その時、るいも安子と同じ店内にいた。

 ジョーはるいの訛りが岡山弁だと言い当てた。あの時の少年がジョーであるなら腑に落ちる。当たり前のことだが、安子の物語とるいの物語は無関係ではないのである。

 母娘の関わりはまだある。るいは「竹村クリーニング店」で働き始めたところ、客として訪れた自称・弁護士の卵の片桐春彦(風間俊介、38)から映画に誘われる。人生初のデートだった。第42話のことだ。

 2人で観た映画は故・黒澤明監督の代表作の1つ「椿三十郎」(1962年)だった。同時上映は架空の時代劇「棗黍之丞(なつめ・きみのじょう)」シリーズの第20弾「女狐乱れ桜」。

 安子と稔が2人で初めて観た映画も「棗黍之丞シリーズ」である。第8話、1940年のことだった。

 フィルムはモノクロからカラーに変わっていたものの、主演はモモケンこと桃山剣之介(5代目尾上菊之助、44)で同じ。決めゼリフも一緒だ。

「暗闇でしか見えぬものがある」(棗黍之丞)

 12年近く離ればなれになっている母娘が同じシリーズの映画を観た。それを母娘は知らない。ちょっと哀しい。

 第42話で棗黍之丞に斬られたうち1人は松重豊(58)。だが、役名はなかった。このため、SNS上には「松重さんの使い方が贅沢」と感服する意見が並んだが、松重の出番はまだあるはず。

 この朝ドラは「ラジオ英語講座と、あんこと野球とジャズと時代劇を題材に書き下ろすオリジナルストーリー」と謳われている。おそらくモモケンと松重の本格的な出番はこれからなのだ。

 どういう形で2人が出てくるかというと、るいの娘・ひなた(川栄李奈、26)が関係するはず。「ひなた編」の舞台が京都なのは早くから告知されている。時代劇の撮影所が集中する街である。その上、制作側はひなたの人物像を「時代劇が大好きで、侍に憧れている」と発表済みなのである。

 母、娘、孫娘がつながり始めた。これから先、より深く強く結びついていく。伏線の回収もある。

 藤本有紀さん(54)の脚本はテンポが良いだけでなく、まるでパズルのように複雑なのだが、それが解けた時、深い感動がもたらされる。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮編集部

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。