千葉真一を国民的スターにした「キイハンター」秘話 俳優・谷 隼人×女優・大川栄子
ホテルのドアを無理やり開けると……
――千葉さんと野際さんは「キイハンター」時代から交際していたんですか。
大川 私はまったく気づきませんでした。だから、千葉さん、野際さんとよくスキーに行っていた。お二人とも苗場が好きで。とっても上手くて、さっそうと滑っていく。その後を私がボーゲン(初心者用の滑り方)で付いていくの。
谷 一緒にいても気づかなかった?
大川 全然。スタッフから「栄子ちゃん、気をつかいなよ」と言われたけれど、意味がわからなかったの。「キイハンター」のメンバーは全員仲よしだったから。
谷 僕は知ってたよ。
大川 ほんと?
谷 宮崎ロケの「世界殺人集団 南国の決斗」のときに、夜お酒がなくなったから野際さんの部屋に分けてもらいにいったんだ。
大川 野際さんは、お姉さん的な存在だったからね。
谷 「お姉ちゃん、お酒をもらいにきたんだけど」と。「谷君、なに?」って声だけで、開けてくれないから、強引にドアを引いたら、部屋の中で影が動いた。影はさっとベッドを飛び越えてその向こうに隠れた。猫のように音もたてずに着地したんだ。あんな動きができるのは、千葉真一しかいない。千葉さんの撮影のない日だったから、付き合っているんだな、と。
大川 タイプの違う二人だったわね。
谷 知的な野際さんと肉体派の千葉さん。
金額のない小切手
大川 ご飯もお買い物も、私はいつも野際さんに付いていった。野際さんはおしゃれで、当時で1枚何万円もする、ブランドのスカーフを買っていらして。横で私は「おしゃれだなあー」って眺めていた。撮影が忙しく、なかなか大学に行けなくて、勉強がどんどん遅れてね。第一外国語は英語、第二外国語はフランス語を選択していたんだけど、野際さんはどちらも堪能だったから、撮影の合間にいつも勉強を見ていただいていた。ものすごく贅沢な先生。
谷 僕も忙しくて、デートする時間も作れなかった。
大川 撮影はいつも深夜まで続いて、タクシーで帰っていたでしょ。学校もあって、睡眠時間がとれないから、私、撮影所にも学校にも通いやすい恵比寿にマンションを買ったんだ。銀行で交渉を重ねてローンを組んだの。川口さんにその話をしたら、「栄子、若いのにえらいな」とほめてくださって、「家具を買いなさい」って、金額の入っていない小切手をくださった。
谷 えー! スゲエな!
大川 「いくらでも好きな金額を書きなさい」って。もちろん、ささやかなものを買わせていただいたけど。野際さんもマンションを見に来てくれて、部屋に合う北欧のお皿をくださった。
谷 「キイハンター」のメンバーって、丹波さん、野際さん、川口さんのような育ちのいい派と、千葉さんと僕のようなガツガツと上昇志向の強い成り上がり派の両極だったよね。
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