千葉真一を国民的スターにした「キイハンター」秘話 俳優・谷 隼人×女優・大川栄子
「疲れた女優さんの顔は撮れない」
大川 1年目はオールアフレコで、毎週末全員集まっていたでしょ。丹波さんはいつも自分の台詞の出だしがわからない。野際さんが背中をトントンと押すと話し始める。でも、なぜか毎回ピタッと合う。
谷 丹波さんは、台詞をしゃべるのも一番うまかった。
大川 役だけでなく、仕事でもボスでした。「キイハンター」の初期は、毎回メンバー全員が出演していたでしょ。撮影とアフレコでほとんど休みがなくて、とくに野際さんと私は顔がどんどん疲れていって、「こんなに疲れた女優さんの顔は撮れない」と、ついにカメラマンからNGが出ました。そのとき丹波さんがスタッフ全員を集めて、スケジュールの見直しを指示してくれたんです。
谷 そんなことがあったんだ。知らなかった。
大川 それで、キャストのシフト制がスタートしたのよ。毎回、誰か1人か2人を主役にして、ほかのメンバーはファーストシーンだけ出演するようになった。
丹波さんを信じたら
谷 僕、丹波さんにお金も借りていた。新宿区河田町の賃貸マンションの敷金・礼金のためだったか、当時のお金で30万~40万円借りました。部屋は6階で、千葉さんが4階に住んでいた。
大川 偶然?
谷 ええ。住んでいたのは半年くらいだったけれど、丹波さんに借りたお金はきちんと返したよ。丹波さんから「オレはいいんだけど、女房が返してもらえとうるさいんだよ」と催促されて。
大川 丹波さん、みんなの世話をしていたのね。
谷 あのころ、僕、スピード狂というか、クルマが大好きだったでしょ。
大川 うん。谷君のBMWでよく送ってもらったわね。
谷 それでスピード違反で、警察に呼び出されたんだ。そのとき、丹波さんがね、「オレの名前を言えば大丈夫だ」って言うから。
大川 言ったの?
谷 うん。そしたら、もっと怒られて、でも、サイン色紙を何枚も書いて、許してもらった。
――おおらかな時代ですね。
谷 丹波さん自身も一方通行の逆走で、警察官に車を停められたことがあった。そのときにウインドウを開けて「僕は国際警察だが、なにかな?」って。さすがに警察官は怒って、大変だったとか。
大川 「キイハンター」が終わってからだけど、結婚するときに夫(俳優の河原崎建三)と二人で丹波さんにご挨拶にうかがったんです。丹波さん、「やあやあ」と出てこられて「君たちは前世から夫婦なんだよ」と。その後はずっと前世の話でした。「君たち、あの世はチャーハンなんだよ」って。あの世では、それぞれの霊魂が混ざりあっているという意味だと思うんだけど、私たちには理解の及ばない展開になってしまいました。
谷 僕も妻(松岡きっこ)と挨拶に行ったら「君たちは前世からのクサリ縁だ」と。
大川 “腐れ縁”じゃなくて?
谷 うん。固く結ばれている“鎖縁”なんだって。あとはずっと前世の話。
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