誤解だらけの「誤嚥性肺炎」の予防法 嚥下機能を高める食べ物とは?

ドクター新潮 医療 肺炎

  • ブックマーク

コロナ禍の影響は?

〈ここ2年ほどはコロナ禍が続く。COVID-19にばかり注目が集まるが、寺本教授によればその余波で、高齢者はより誤嚥性肺炎のリスクが高まった可能性があるという。〉

 マスクをする習慣ができたこと自体は、誤嚥予防にとって良いことでした。喉には粘液が異物をキャッチし、それを繊毛が喉の外に押し出す機能があります。そのためには喉に潤いが保たれていることが必要で、マスクの着用はそれに役立つのです。誤嚥リスクが高い方はこのままマスクの習慣を続けた方がいいかもしれません。

 一方で、コロナ禍で思うように外出ができず、人と話をする機会が減ってしまったことは、明らかにネガティブな要素です。先にも述べた通り、発声の機会が少なくなると喉の筋肉も衰えますし、唾液の分泌も減り、口腔内が不潔になりがちです。

 活動の量が減ることのマイナスは他にもあります。脊柱起立筋という背骨を支える筋肉が強ければ強いほど、全身の筋力低下が起こりにくく、誤嚥性肺炎にも罹りにくいですし、罹ったとしても悪化しにくいという研究データがあります。しかし、動かなくなるとこの筋肉も衰えますので、誤嚥性肺炎にとっては大変なリスク増になります。この状況が続けば続くほど、高齢者にとっては、ボディーブローのように誤嚥の脅威が高まっていくかもしれません。

 現在、誤嚥性肺炎で亡くなるのは年間4万3千人ほど。社会の高齢化が加速度を増すにつれ、この人数が今後、増えていくのは確実です。

 とはいえ、過度に恐れる必要はありません。この病はメカニズムがはっきりしていて、そのための予防法、治療法も確立している。「名医」や「スペシャリスト」を探す必要がないのです。重要なことは、信頼できる医師や情報と接し、正しい戦略を持って備えを行うこと。

 敵を知り、己を知れば百戦殆(あやう)からず、です。

寺本信嗣(てらもとしんじ)
東京医科大学八王子医療センター呼吸器内科教授。1961年、山梨県生まれ。山形大学医学部卒業、東京大学医学部臨床医学系大学院修了。医学博士。米国留学や、東大医学部附属病院、筑波大学ひたちなか社会連携教育研究センターなどでの勤務を経て、現職に就く。呼吸器疾患を専門とし、老年呼吸器病学の第一線で活躍している。

週刊新潮 2021年12月30日・2022年1月6日号掲載

特集「『喉を鍛える』だけではダメ!? 誤解だらけ『誤嚥性肺炎』から命を守る完全防御」より

前へ 1 2 3 4 次へ

[4/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。