誤解だらけの「誤嚥性肺炎」の予防法 嚥下機能を高める食べ物とは?

ドクター新潮 医療 肺炎

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鼻トラブルと姿勢に注意

 また、意外に思うかもしれませんが、誤嚥性肺炎には口腔内ではなく、鼻腔からの細菌で感染するケースも考えられます。はなを啜(すす)った際や、あるいは寝ている際の呼吸を通じ、食道だけでなく、気道にその内容物が入ることがよく起こるのです。先ほど挙げた肺炎球菌が最も多く保持されているのは、実は鼻腔。また、副鼻腔炎を放置していると、その菌が肺に入り込むことも十分あり得ます。鼻にトラブルを抱えている場合は、速やかに治療するといいでしょう。

 更には、就寝時の不顕性誤嚥に備え、寝ている際の姿勢についても一考する必要があります。

 一般に、顎が上がると、気道が確保されるため誤嚥を起こしやすく、逆に顎を引くと気道が塞がり、嚥下に有利になります。

 そのため、仰向けで首を伸ばしたまま寝ると不顕性誤嚥のリスクが上がり、好ましくありません。時には横向きで寝るなどの工夫が必要です。

 要介護の方などは、仰向け以外の姿勢が取りにくいと思います。その場合、上体を少し起こすと顎が下がり、誤嚥のリスクが下がります。枕で頭を高くしたり、クッションを背中に置くなどして上半身を20~30度上げて寝ることが望ましいです。

 また、毎日同じ姿勢で寝ていて、微量な誤嚥が積み重なった場合、肺の同じ個所がやられ、そこから炎症になりやすい。寝たきりのお年寄りは、肺の後ろ側に炎症を起こしやすくなっているという事例をよく見かけます。毎日の睡眠時の姿勢も、時々は意識してみるといいかもしれません。

歌より音読

〈まずは肺のコンディションを整える。そして肺炎の原因となる細菌も減らす――これが重要。その上で、誤嚥そのものを予防する手立てを取るべし、というわけである。〉

 いよいよ嚥下リハビリですが、その前に自宅で簡単に嚥下能力をチェックする方法をお伝えしましょう。

 唾液をごっくんと飲み込んだ後、息を何秒止められるかを試してみてください。2秒止められれば大丈夫ですが、もしできなければ、常時誤嚥の恐れがあります。

 もうひとつは反復唾液嚥下テスト。30秒間に唾を何回飲み込めるかを試し、嚥下と唾液を出す能力を測ります。3回できれば合格といえるでしょう。

 これらが十分にできなければ、嚥下能力を鍛えた方がいい。

 そのためには、まず発声することがお勧めです。実は、嚥下に必要な筋群と発声のための筋群は、その9割が重なっています。声を出すことで、飲み込む力も鍛えられるのです。毎日、新聞や本を数行でいいので音読することを習慣にするのがいいと思います。歌を歌うのもいいですが、どうしても好きな歌ばかり歌いがちなので、いつも同じ部分しか鍛えられません。他方、新聞の音読であれば、未知のことも知ることができ、認知機能の刺激にもなるのです。加えて、発声をすると唾液の分泌も促されることになり、口腔内を清潔に保つことにも役立ちます。

 また、意外と重要なのは食べ物です。嚥下反射の際、それをスムーズに行うために、脳からサブスタンスPという物質が分泌されます。この物質の濃度が高まると、嚥下と咳の機能が高まるのです。サブスタンスPの分泌を促進する物質として知られているのは、カプサイシン。唐辛子に含まれる辛味成分ですね。嚥下機能を強化するためには、適度に唐辛子を摂るのがいいかと思います。

 更には、一昔前に高血圧の薬としてよく用いられたACEという薬がありますが、これもサブスタンスPの分泌を促す作用があることが判明しています。ACEには肺炎を抑える効果もあります。嚥下に不安を持つ方の場合、もし高血圧の症状も出ているのであれば、主治医の先生に相談し、この薬を処方してもらうのも一考です。

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