誤解だらけの「誤嚥性肺炎」の予防法 嚥下機能を高める食べ物とは?
きれいな肺であれば肺炎には至りにくい
口の中に入った食物や唾液を飲み下すことを嚥下と呼びます。
口の奥には、胃へと繋がる「食道」と、肺へと繋がる「気道」の2本の管が延びている。食物が口に入ると、「食べ物が来た」という情報が脳に伝わり、気道が閉じられ、食道が開きます。これを「嚥下反射」と呼び、口の中に入った食物は食道から胃へと向かう。気道から肺に入ることはありませんし、万が一誤って入り込んでも、むせたり咳き込んだりすることで問題なく排出されます。
しかし、年を取り、脳や喉周りの筋肉が衰えると、このメカニズムが上手く機能せず、肺に食物や唾液が入り込んでしまう。これが誤嚥です。誤嚥をすると、人間の口腔内には細菌やウイルスが生息していますから、それも一緒に肺に入り込んでしまう。これが続くと、肺の炎症、すなわち肺炎に至ります。
ここで押さえていただきたいのは、誤嚥をしても、必ずしも肺炎には至らないということ。肺の中に細菌やウイルスが入ってきても、整備された“きれいな”肺であれば、肺炎まで至る例はそう多くはありません。しかし、高齢者は肺組織そのものが衰え、傷んでいる場合が多いため、炎症が起こりやすく誤嚥性肺炎になりやすいのです。
また、誤嚥にも2種類あります。食事など意識がある時に起こるのが「顕性誤嚥」と呼ばれるのに対し、夜間、意識のない時に起こるのが「不顕性誤嚥」です。人は寝ている間にも唾液を少しずつ出し、1時間に十数回のペースで無意識に嚥下を行っています。しかし、年を取るとこれが上手くいかず、夜間、無意識に誤嚥を起こすことがあるのです。こちらについては無意識下の状態で起こるため、嚥下リハビリをしてもその成果が出にくい。
つまり、誤嚥は老化現象のひとつであり、程度の差こそあれ、防ぎようのないもの。誤嚥しても肺炎に至らないようにすることが予防のためには最重要なのです。
口腔ケアが重要な理由
〈では、その上で具体的にどう予防するのか。
寺本教授が続ける。〉
まずは、ワクチンをきちんと打つことで、細菌への感染リスクを下げることが重要です。
とりわけ、高齢者であれば、肺炎球菌ワクチンは是非打っておきたい。誤嚥性肺炎を発症した患者さんから検出された細菌を調べるとさまざまな種類が見られますが、一番多いのは肺炎球菌です。ある調査では、原因となった菌のおよそ4分の1が肺炎球菌との結果が出ています。しかし、この細菌にはワクチンがあり、高齢者は定期接種の対象ですので、これを打って抗体を作っておけば、誤嚥性肺炎の発症リスクも下がるのです。
また、先に述べたように、肺が傷んだ状態であると、誤嚥性肺炎を起こしやすい。そのため、新型コロナはもちろん、インフルエンザなどのウイルスに対するワクチンはしっかりと打っておくことが重要です。そもそも、免疫というものは時々働かせないとうまく機能しないもの。時折、安全性が保証されているワクチンを打ち、タンパク質を作る指令を外から入れる方が、健康長寿でいられるのです。
これに加えて、肺炎を防ぐために是非行ってほしいのは口腔ケア。たとえ誤嚥をしてしまったとしても、口腔内の雑菌が少なければ、それだけ肺炎になるリスクは減ります。実際、口腔ケアを行うことによって、肺炎発症率が半分に減少したというデータも存在します。
高齢者であれば、健康であっても、毎日必ず歯磨きをしてください。一度しっかりと歯磨きをしても、3日間サボると元に戻るといわれています。毎日継続することが大切です。いくら歯磨きを丁寧に行っても、きれいにするポイントがずれていては元も子もありませんので、歯科医の先生や歯科衛生士の方に、磨き方を指導してもらうといいでしょう。歯間ブラシやマウスウォッシュも、継続できるならば使用した方がいいと思います。
他方、要介護の方は不顕性誤嚥が頻発する恐れがあります。そこで、介護者の方は歯磨きの際、歯だけではなく、歯肉や舌の後ろの菌に至るまで、入念にお掃除をする必要があります。専用のグッズを使い、専門家の指導を受けた上で行うといいでしょう。
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