3代目“山の神”神野大地が振り返る15年の青学優勝 「もうダメだって思った時に…」(小林信也)
遅いのに、速い?
神野は1年の時こそ箱根のメンバーに選ばれなかったが、2年でエース区間の「花の2区」を任された。3年の正月も2区を走ることが決まっていた。
「2区は平坦ですが、後半にふたつのアップダウンがあるんです。それで5区の選手が上りのタイムトライアルに行く時、一緒に行かないかと誘われたんです。上りを経験すれば、2区の上りの対策になるだろうと」
それが思いもよらぬ覚醒の始まりだった。
箱根で神野が山を上り始めてしばらくすると、伴走車の中がざわつき始めた。
(速い、とんでもなく速い)
10キロを過ぎるころ、原が神野に向かって叫んだ。
「すごいタイムが出るぞ」
言われた神野は戸惑った。
(えっ? こんなに遅いのに、速い?)
上りだから平地を走るよりペースは遅い。箱根を走る選手なら通常1キロ3分は切れる。神野の実感では、いま山を上っている自分は1キロ3分半を上回っている。その遅さが不甲斐ないと思って走っていたのだ。
「最初は不思議な気持ちでした。遅いのに、速い? でも、原監督がすごく興奮している。僕もだんだんテンションが上がって、そのままゴールに飛び込みました。そしたらそれまでの青学のベストタイムより3分も速かった。それで『5区はお前だ』となって」
2区の練習のつもりが、5区を走ることになった。
「高校時代から坂の練習は苦手だったので、箱根の5区を走るなんて考えていませんでした。でも2区にこだわりもなかったので」
その日からひと月半後に迫った大舞台を目指して、上りに向けた練習が始まった。
「基本は平地を走る練習なんですけど、フィジカルトレーナーに山上り専用のエクササイズを考えてもらって、僕だけそれを加えてやりました」
山を上るときは前傾姿勢になる。だから片足を前に出し、ハムストリング(太腿の裏側)や大腿四頭筋を鍛えるスクワットを繰り返した。
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