国民は大統領選の両候補に失望、外交は視界絶不良… 2022年の韓国を占う

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 韓国野党「国民の党」は1月3日に、尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領候補の選挙活動の一時中断と、「選挙対策委メンバー」の大幅入れ替えを発表した。朴槿恵(パク・クネ)前大統領の釈放もあって、尹候補の当選可能性に赤信号が灯り、支持率は40%台から29%に下落した。与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補の支持率も大きくは上昇せず、国民は両候補に失望している。大統領候補の変更を求める声が56%にも達した(ハンギルリサーチ)。候補者への希望が消えた大統領選は珍しい。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、12月31日午前0時に朴槿恵前大統領を釈放した。2017年3月に逮捕されて以来4年9カ月ぶりの自由だ。多額の収賄容疑で、懲役22年の刑が確定していた。韓国では大統領経験者が投獄される「怨讐の政治文化」が続き、日本のような「和」と「赦しの政治文化」はなかなか定着しない。今年は文大統領が退任後に逮捕されるかもしれず、新しい社会の視界は絶不良だ。

 朴前大統領は大統領恩赦の直前に、ソウル市内の病院に入院した。当局の病気理由釈放の証拠作りだろう。病院前には支持者が「朴槿恵大統領快癒祈願」の大きな看板を立て、多数の花輪が届き、数百人の支持者が集まる人気だった。

 朴前大統領は1月末まで入院し、退院するという。外部との面会は受けない。2月1日の退院時に、声明を出す意向だ。その内容が大統領選挙の行方を決めるだけに、政権と野党の裏工作が取り沙汰される。

 朴前大統領の釈放には、なお疑問が多い。韓国では多くの大統領が収監され、恩赦で釈放された。その際には、「感謝文」や「反省文」が条件になった。ところが、朴前大統領は「感謝文」も「反省文」も公表しなかった。ここに、無罪を主張した信念と、文政権への怨念がこもる。

 文大統領への「感謝発言」は、弁護士が報道陣に対談のメモを示し「感謝を語った」と伝えただけで、文章はない。これは、政権側との妥協の産物だろう。後に、本人は「弁護士が言っただけ」と主張できる。

 さらに政権側は、「大統領選挙直前の2月末までは、外部に発言しない」との約束を求めた。文在寅政権は、朴前大統領が「政権交代が望ましい」と発言するのを恐れる。

 新聞報道では、釈放は野党の尹錫悦大統領候補の追い落としのため、との解説が一般的だ。尹候補は、朴前大統領の収賄事件捜査の責任者で、有罪判決に追い込んだ。彼女はこれに反発し尹候補を支持しないだろうと、権力側は判断した。

 根拠になったのは、支持者と朴前大統領の8万通に及ぶ文通で、彼女は手紙をくれた全ての支持者に返事を書いた。その内容から、尹候補を支持しないと考えたが、朴前大統領も政治家だからそれを承知の上で当局を騙したはずだ。

 実は、朴前大統領の釈放は尹候補の追い落としが主目的でなく、北朝鮮支持の「統合進歩党」(すでに解散)の李石基(イ・ソクキ)前議員の釈放と、韓明淑(ハン・ミョンスク)元首相の復権が主目的だった、と韓国政界では語られる。日本では、日本経済新聞だけがこの事実に触れた。

 李前議員は、北朝鮮の革命路線に従った「内乱扇動」の罪で9年の刑が確定した。残り1年5カ月の刑期を残しているが、尹候補が大統領当選すれば釈放は不可能になるから、支持者と北朝鮮が釈放を求めていた。およそ2万人の支持者が12月に集会を開き、釈放を呼びかけた。

 韓元首相は盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領勢力の重鎮で、大統領選挙の票集めには公民権停止を解除する「復権」が必要だとされた。だが、2人だけを赦免すれば保守勢力が反発し、大統領選挙で与党候補が不利になるとの考えから、朴前大統領を釈放せざるを得なかったのが真実だと、ソウルの政界通は説明する。

 韓国では、3月9日に大統領選挙が行われる。しかし、国民の多くが与野党の大統領候補に失望を表明した。希望が消えた大統領選は初めてだ。日韓、南北、米韓、中韓関係の先行きはもっと暗い。韓国経済の展望も弱い。財政は悪化し、国債発行がふくらむ。

 2人の大統領候補の人気失墜の原因は、スキャンダルだった。与党の李在明候補は、城南(ソンナム)市長時代の不動産開発にからむ、400億円にも及ぶ不当配当への関与が疑われた。さらに息子の常習賭博と買春も報じられ、本人の女優との不倫疑惑、飲酒運転の前科もあった。

 当然だが、尹錫悦候補の支持率は上昇し、昨年12月まで野党陣営は、すっかり「大統領選当選」の気分に。ところが、尹候補の側近と党代表らの不和と内紛が報じられ、支持率は下降に。

 さらに、夫人の金建希(キム・ゴンヒ)氏の経歴詐称が報じられた。女子大の教員応募の履歴書への、有名美術賞入賞の記載がウソと判明した。この事件に2人とも公式の謝罪会見をせず、簡単な謝罪で済ませた。これにメディアと与党、世論が反発し、2週間後に夫人が記者会見で謝罪した。

 これに対し与党の李候補は、息子のスキャンダルを土下座して謝罪し、謝罪の違いを見せた。土下座しない尹候補夫妻は、庶民の信頼を失ってしまった。尹候補の支持率は11月にはいずれも40%を超え、李候補に10%もの差をつけていた。

 日本でも韓国でも、「選挙は当選したと思った途端に負ける」と言われる。この選挙の魔力を、尹候補と側近たちは自覚していなかった。特に韓国では、当選しそうになると、それまで見向きもしなかった政治家や選挙詐欺師が、手のひらを返して群がる。当選後のポストや利権を目当てに、正直で誠実な人物を追い出す。

 さらに、側近たちは権力を取った気分で、野党内の実力ある政治家を排除しようとした。閣僚や主要ポストの争奪戦で、競争相手になりそうな人物を追い出した。野党「国民の力」代表の李俊錫(イ・ジュンソク)氏は国会議員ではない。それを馬鹿にした政治家が、李代表の指示に従わず無視したため、彼は選挙対策委員会からの撤退を表明してしまった。

 この党内内紛が報じられ、野党と尹候補への信頼が揺らいだ。多くの国民は、古い保守政党や保守政治家が権力を濫用し、利権を漁った事実を忘れていない。だから、国会議員ではない野党代表を歓迎し、政治家ではない前検事総長の尹候補を新鮮な指導者として支持した。

 それが結局は、昔の保守政党と政治家が生き返った、と失望した。政権を変えても、結局は利権に群がる韓国政治の悪弊の記憶が呼び覚まされた。政権交代を求める世論はなお50%を超えるのに、尹候補の支持率が29%に落ちた理由がここにある。

 ただ、韓国の世論調査はあまり信用できない。回答数が20%以下と低いのと、当局からの圧力や不利益を心配して正直に答えないからだ。少なくとも大統領選挙の1カ月前にならないと、調査は信用できない。また、調査会社がスポンサーに配慮するので、信頼度は落ちる。

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